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青空を遮る高層ビルに囲まれたコンクリートの箱庭を、自動車と人が慌ただしく動きまわる。幹線道路から少し外れた街中の路地裏。俺たちはその一角に降り立った。彷徨う霊は、この近くにいるのだろうか。
「えーっと。確かこっちだったかな」
橋本は開けた道を進んでいく。歩行者には俺たちの姿は見えない。それでも、本能のなせる業か、俺たちとぶつかる前に避けるように通り過ぎていく。
「ここです」
大きな道路の曲がり角。電柱の傍に花が添えられている。ここで事故があり、誰かが亡くなったのだと分かる。
「この辺りにいるんですかね」
「そうだと思います。その場所に執着する霊は、あまり遠くには行けないはずですから」
花が添えられた電柱を中心に、辺りを探す。目的の霊を見つけるまで、そう時間はかからなかった。
花壇に座って両手で顔を覆っている女性がいた。ショートヘアーの黒髪、細身に纏う白のブラウス、ベージュのフレアスカート。そんな女性が泣いていれば、誰か一人くらいは声をかける。だが、道行く人が声をかけることはない。亡くなっている霊だからだ。彼女の身体は薄くなり、彼女の向こうの景色がぼんやり見える。
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