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「はじめまして」
橋本は花壇の彼女に迷いなく声をかけた。顔を覆っていた彼女は、びくりと肩を震わせ、恐る恐る両手を離して顔を上げた。目が合った橋本は優しくほほ笑む。
「私は橋本といいます。こちらは磐田さん」
「あなた達……私が見えるの?」
涙は出ずとも悲しみをたたえた彼女の目が、救いを求めるように俺たちを見つめる。
「見えますよ。私たちも、あなたと同じだから」
長い間、孤独と闘っていたのだろう。彼女は嗚咽を漏らした。独りぼっちの彼女の探しものは、彼女にとってそれだけ大切なものなのだろう。俺たちは彼女が落ち着くのを待った。その間、橋本は隣に座って彼女の背中を撫でていた。
「ごめんなさい。もう、大丈夫」
落ち着いた彼女が笑顔を見せる。
「私は霧崎夏希です。私、デートの帰りにここを歩いていたら車に撥ねられてしまって。気付いたら、こうなっていたんです」
「あら! デートなんていいですね」
「四年付き合った人なんですけど……その夜にプロポーズしてくれて。指輪をもらったんです。私、嬉しすぎて、ずっとケースを手に持って歩いてて。浮かれてたんですね。車に轢かれたときに、大切な指輪がどこかに行ってしまったんです。ずっと探してるんですけど、見つからなかった」
「そんな大切なものを失くしたら、安心して成仏できないですね。私たちも探すから、頑張って見つけましょう!」
「え……いいんですか?」
「もちろん。俺たちはそのために来たんですし」
「ありがとうございます……。本当に、ありがとうございます」
こうして、俺たちも一緒になって彼女の探し物を見つけることにした。一緒に探す相手ができただけでも、彼女の支えになったようだ。
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