骨ヲ齧ル

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ものすごく疑問形の声? うーん、テノール? 中性的な美声? そういえば最近聞いたことがあるような、ないような? あれ? そういえばどこでさらわれたんだ? 昨日の記憶をたどる。えーと昨日は会社終わって近所のライブハウスでやってるファルニカティアのライブに行ったらボーカルのカナデさんに話しかけられて間近でカナデさんの歯を眺めてたらなんだかすげドキドキして、クッ、思い出した。そんでカナデさんが持ってきてくれたドリンク飲んだら、……あれ? そっから記憶がない。あれ? 「あの……ひょっとしてカナデさんなんでしょうか?」 「あれ? 本当に声でわからないもんなの? 君、俺のライブしょっちゅう来てくれてるよね?」 前の彼女と行ったライブで俺はカナデさんの歯がものすごく気になった。それからカナデさんが歌ってる途中にチラチラ見える歯を眺めに通うようになった。でも歌は聞いていませんでした。なんていえない。正直顔もあまり見ていない。 「すいません、わかりませんでした。それで何でこんなことになってるんでしょう?」 少しの嫌な予感を感じながら問う。 「ええと、俺は君に見られているというかガン見されてるのは結構前から気がついていたんだ。それで気になって話しかけたらやっぱ俺の顔すごい熱い目で見られたから。で、俺も見返してたら好みだと思って」 好み? なんか今出た単語がすごい不穏なんだけど。 「あの、勘違いさせてたらすいません。俺はノーマルで好きなのは女の人なんです。ええと、なんていうか、あなたの歯が好きなだけなんです。歯以外、というかあなたの顔もまともに覚えていないくらいで」 沈黙がいたたまれない。 「…………歯? 歯って口の中の歯? 虫歯とかの?」 うん、あんまり理解されないのはわかってる。彼女にもドン引かれた。
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