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「……その歯であってます。男性の歯を好きになったのは初めてなんですが、ノーマルなんで家に返してください。誰にもいいません」
「ちょっと予想外だな。そうか、歯か。困ったな」
本当に困った声がして、沈黙が降りる。
何か、本当に嫌な予感がしてきた。少し及び腰になるが、手が拘束されていて逃げられない。真っ暗な視界に不安感が激しく沸き上がる。
「そうか、歯か……。せめてなんでも希望を叶えようと思ってたんだけど難しい。うーん、俺の歯を何本かプレゼントしたら喜ぶ? さすがに全部ってことなら少し考えさせて、歌えなくなる」
「えぇ? 歯?」
酷く混乱する。歯は好きだけど歯だけもらっても困る。抜けた歯は死んでる。神経も血管も繋がってない。それなら馬とかウサギとかの歯でも変わらないじゃないか。ただのオブジェだ。
口の中で生きている、人の歯が好きなんだ。
「歯だけあってもちょっとなんか違うっていうか、生えてるのがいいんです歯。抜いたら歯が死んじゃうじゃないですか」
俺も一体何をいってるのだろう、何か混乱する。
息をのむ音。まあ、言ってることはどう聞いても変態だ。呆れるか気持ち悪がって解放してくれないかな。そう思っていると、物凄く嬉しそうな声がして抱きしめられた。
「わかる! それ凄いわかる! やっぱり生きてないとだめだよね! わぁ! 嬉しい!」
??? ますます混乱した。
わかる? 何が?
「えっとあなたも歯が好きなんですか?」
「あぁ~俺が好きなのは歯じゃなくて、骨」
骨? また顎の骨が撫でられた。骨?
「顎の骨?」
「んーん、全部」
甘えるような声がして、頭を抱き抱えられた。
「これが頭蓋骨、頸骨、背骨、肩甲骨、肩峰、上腕骨、橈骨、尺骨、手根骨、中手骨、それから……指節骨」
うっとりした声に従ってその指先は俺の背中、肩、腕と滑らかにするすると動き、頭の上で小指の爪を掴まれて止まった。
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