クリスマスギフト

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朝。子供達はきっと枕元にあるプレゼントに歓喜し走り回っているだろう。 こたつですやすやとまだ眠りについているヒーローの寝顔を一目見ようと覗き込んでいると玄関の戸が開いた。 「ただい...」 目の前の光景に母が持っていた鞄を落とす。 その音にヒーローは目を覚ました。 「裕ちゃん?」 「あ、おばさん。お帰りなさい じゃないか、お邪魔してます」 眠たそうに瞼を擦り顔を上げるヒーローに、戸惑いながら母は玄関の戸を閉め中に入った 夜勤明けのせいか酷く疲れた顔をしている 「えっと、どうしてここに?」 荷物を床に置きながら訪ねる母に、まだ温もりがあるこたつから足を抜きヒーローは答えた。 「昨日薫ちゃん..薫君に入れてもらって」 その言葉を聞いて母の顔が一瞬曇る。 「どうかしました?」 「あ、ううん。そう。あの子が」 その反応に首をかしげるヒーローは  あっ と声を上げ、ダイニングテーブルの箱を指差した。 「それ、薫ちゃんが作ってましたよ。 おばさんと一緒に食べるって」 母はテーブルの上に置かれたケーキの箱を見て、笑った。 「そうなの。じゃあ三人で食べましょうか」 小皿とフォークを三人分出すとヒーローを手招きした。 「薫ちゃんは?」 そう呼ばれたので、自分も席につく。 母は丁寧に食器を配ると僕の前に写真立てを置いた。ケーキを両手に抱え笑う青年(ぼく)。 「不思議な事ってあるものね」 母はヒーローの隣、僕の真向かいに座って 微笑む。 首をかしげる彼女は母の顔と僕の顔を交互に見た。   ケーキの箱を震える手で開ける。 中身は生クリームに赤い苺の映える真ん丸いショートケーキ。 「ミカマンめっけ!」 ヒーローが大声で指差す。 オレンジのグミで出来た不細工な雪だるま。 その隣に人の形を為した砂糖菓子が3つ。 母は半信半疑だったのだろう。 途中で手を止め、両手で口を覆った。 「おばさんと薫ちゃんと...私?」 小さな人形は男の子と女の子がピンクのマフラーでくるまっている。 ミカマンの隣には母の人形。 「本当にあの子なのね」 涙ぐみながら母は呟いた。 泣かないでよ、母さん。 そんな顔を見るために作ったんじゃないんだ 「おばさんどうした? 薫ちゃんはどこ行ったの」 その様子を見てヒーローは不安になったのか 母に聞く。 母はケーキを切り分けながら彼女に話した。 僕がもうこの世にはいないこと。 「ほら、あの子おっちょこちょいだから」 そんな言い方はないだろう 「一年前にね、サンタの格好してケーキの配達に行った帰りに...」 そこまで言うとさすがに理解できたようで ヒーローは青ざめた。 「私、昨日顔真っ青だよって言っちゃった」 そこかよ。 二人は互いの近況やら思い出話に花を咲かす 僕はその顔を見て満ち足りた想いで頬杖をつき目を伏せた。 二人の笑い声が耳に心地よく響く。 生きてるとさ、色々あるけどやっぱり 笑っていて欲しいんだ。 死んだから言えることなのかもしれないけど、やっぱり自分は生きたかったから。 楽しいこともやりたいことも、 あの時は見つからなかったけどあるんだよ。 こんな後悔を味わって欲しくない。 だから一生懸命、生きてみてよ。 それを伝えるために大切な人達に一言だけ 伝える奇跡を貰ったんだ。 だって今日はクリスマスだ。 三日で黄泉の国から復活した神の子が生まれた奇跡の日だろ。 目を開け、僕はケーキに書いた文字を読み上げる。 「Merry Christmas」 もうケーキは作れないけど、 ちゃんと側にいるからさ。
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