2、ともだち

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2、ともだち

ユウギと乃愛は同じ中学の1年生 小学校も一緒だった。 6年生のある日、教室の窓から 大きなゴキブリが飛び込んできた。 生徒たちはきゃあきゃあ言って ゴキブリから一番遠い隅っこに固まった。 お調子者の男子が ホーキをもってゴキブリに近づく。 弱っているゴキブリはのろのろと逃げ回り ホーキで叩かれるままになっている。 固まって見ていた女子は それを見て爆笑した。 担任が殺虫剤を取りに教室を出ると 席に座ったままだった乃愛が立ち上がり しれっとゴキブリに近づき 素手で素早く掴むと 女子が騒然とする中 つかつかと窓辺に行って 校庭にぽい、と投げ捨てた。 窓から首を突き出して確認すると ゴキブリは羽を広げ飛んだ。 目で追うとに影に降りったって マゴマゴと逃げていったのだった。 それが、6年生の夏休み直前のできごとで 2学期が始まると 乃愛は自分が 「ゴキブリ」と呼ばれていることに気づいた。 女子の群れから離れて ひとり下校してる乃愛に ユウギが息を切らせて走って追いつく。 「ねえ、ゴキブリって  バイ菌持ってないって  知ってる?」 「知ってる  あれは『不快害虫』  見た目が気持ち悪いから  殺されるんだよ」 二人は黙って並んで歩いた。 ユウギは体が縦横大きくて ランドセルを背負っているのが滑稽なほど。 だけど顔も、することも、何となく幼い。 反対に乃愛は小柄だけど 同級生の女の子たちより どこか大人びている。 「ねえ、ユウギって名前 『遊戯王』からつけられたってホント?」 「ほんとだよ  お父さんが『遊戯王』大好きだったから」 「スゲー」 乃愛は、ハハハと笑った。 かわいい顔してるくせに 大口開けて笑うなとユウギは思った。 それから今まで、二人は仲がいい。 中学に上がると仲がよくても 男子と女子は 何となく一緒に遊ばなくなるものだが 二人は気にしない。
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