3、ユミ

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子供たちが仲良くしていることもあって 乃愛の母親、智子はなんとなく ユミのことを気にかけている。 スーパーを辞めてから ユミが働いていると聞いたチェーンのとんかつ屋に 買い物に行きがてら声をかけた。 するとユミは、作務衣風の制服のまま 智子の隣に座り込み 社交辞令も何もなく いきなり「万能クリーム」の モニターになってくれと切り出した。 化粧品の販売もしているらしい。 聞いたことがないメーカーだった。 乃愛の母親は アレルギーがあるから決まったものしか使えない と断ったが… それから週1くらいのペースで セールスのメールが 送られてくる。 「なんていうかさあ、 いろんな理由付けて3回も断れば、 イヤなんだなって、気づくでしょふつー」 クリームだ ファンデーションだと 次々とモニターを頼まれる。 友達を紹介してと言われる。 さすがにうんざりして 「ねえ その化粧品の話なんだけどさ  手あたり次第すすめないで  買いそうな人にだけすすめなよ  じゃないと、友達なくすよ?」 1回そう言ったことがある。 はっきり言わないと分からないと思ったから。 「そう」 ユミは、無表情で答えた。 でも次の週には、いきなり家にピンポンしてきて 大きなシャンプーの瓶を胸ぐらに押し付けてきた。 3回使って感想を聞かせてくれるだけでいいと言う。 もちろん アレルギーだから無理、と断ったが。 「ところで仕事順調?」と訊いても 無表情にうん、と言っただけで じゃまた、と帰っていった。 今までは セールスメールにも すべて返すようにしていたが もう最近では 返すのも気が重い。
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