5 weeks ago - クリスマスプレゼントは絶望 -

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 冷たい風が吹き付けてきます。  それも当然です。  もう空の大半は夜に染まり、小さいですが星々を確認できます。  この時期、いくら昼が暖かくても、夜が訪れればこんなふうにとたんに寒々しくなります。  まるで同じ日に夏と冬が交互に訪れるかのように。  ええ、わたしは当然薄手のコート一枚しか着ていません。  なぜかって?  完全に夜が訪れるまでに帰宅できれば、この格好で十分だからです。厚手のコートなど昼日中には邪魔にしかなりません。それが秋というものです。  けれど周囲の人たち、イルミネーションの点灯を心待ちにしているであろう人たちは、皆が思い思いのコートにくるまれています。冬の格好をしています。  まるでわたしだけが季節を勘違いした愚か者のように思えてきました。ストールの一枚くらい、かばんに入れておけばよかったのでしょう。  せめてもと、コートのポケットに両手を突っ込みます。薄手のポリエステルの生地は、荒れた手肌にはまったくもって優しくありません。温もりは期待するほどには感じられません。  ああ、でも。  あそこの恋人のように、もしくはあそこの家族のように。今ここに手をつなぐことのできる相手がいれば、この格好でも寒さを感じないのかもしれません。  わたしは今、一人でここにいます。  なぜかって?  一人で行動する必要があったから一人でいただけです。  ああいえ、小さな嘘がありました。  わたしには手をつなぐような関係にある人はいません。  一人もいません。  ああ、あそこのベンチに一人だけならば座れるスペースがあります。  わたしは座ることにしました。  なんだかもう少しここにいたくなったのです。  いえ、疲れていたわけではありません。  そりゃあ少しは疲れていますよ。足は歩き疲れてむくんでいますし。  ですが座った理由はほかにあります。  イルミネーションが点灯する瞬間に立ち会いたくなったのです。
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