0章 私はこうして始まった。

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0章 私はこうして始まった。

 今日の私は、何処か憂鬱な気分でいる。別に何がという訳でもないが、私は自分の興味の無い事に、時間を割く事がめっぽう嫌いだ。  今日は、その嫌いな事が謙虚に行われているこの現状が私の心を不穏な影で覆っている。  それだけだった……それだけのはずなのに……。 「それでは、今夜のメインイベント! 王子とその許嫁の披露です!」  目を輝かせる大人達の中に、瞳を曇らせている私が居て良いものか、とも考えてしまうが別に来たくて来たわけではないのに、私が気を遣うのは、癪だ。  とことん、この目で見つめてやる。 「えーと、皆さん今日は僕達の為にお集まり頂きありがとうございます──」  おかしい。長期休み明けの校長先生の長〜い話くらいどうでもいいと思っていた話が、気が付けば終わっている。と、言うよりは──。 「結花、あなた大丈夫? 途中から白目剥いてたけど?」  だよね!? 気絶してたよね!? 短髪で茶色の紙が似合うヤンチャそうな顔。にも関わらず礼儀正しい言葉遣いのギャップがまた良い。   極め付けに、眉にある勇敢なる勲章と言わんばかりの傷。これが、私の中の恋心を突き動かしたのだ。 「だ、大丈夫だよ! 興味無さすぎて、瞑想してただけだから! 気にしないで! ママ!」  そして、そんな王子と並ぶのは、整った顔に、綺麗に巻かれた髪。愛され系の顔をした次期お姫様だ。目元にセクシーの勲章と言わんばかりの小さいホクロがある。これが、私の中の恋敵への強い想いを突き動かしたのだ。 「お二人は、今何歳ですか?」  リポーターのような人がインタビューしている。さっきまでの曇っている瞳ではなく、田舎の夜空のような瞳を向けて聞き耳を立てた。 「「8歳です」」 「私6歳だよ!」  集中し過ぎたせいで、つい前のめりになって聞かれてもいないのに、大声で言ってしまった……。いや、本当は歳が近くて嬉しかったの。 「あー、申し訳ございません!」  頭を下げる母を見て、私も頭を下げがてら、王子様にしか見えない角度でウインクを決める。  私は、決めた。私もお姫様になって王子様と隣に居る! と。  この時の私はまだ、気付いていなかったんだ……自分が、果てしなく芋女だということに。          ※  『夢を夢のまま終わらせない』なんて言葉を聞いたことはあるけれど、私の夢は夢のまま終わってしまう……。  私は今、豪快な滝のある泉に居る。水の勢いは、容易に丸太などを砕いてしまうほどの強さで、足がガクガクと震えてしまう。  寒さでの震えではなく、恐怖の震え。  あれから、十年経った今お姫様になれるどころか、同級生と比較してもお顔の方がよろしくない為、諦めたわ。     
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