01.少年は夢を見る

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01.少年は夢を見る

黄金郷って知ってるか? 大航海時代に噂で流れたとある場所。 伝説とされた場所。 兄さんから貰った本を読んでから、僕の頭の中はEl Doradoでいっぱいだ。 ああ、どんな場所なんだろう。 El Dorado…。 『ディオ!まーたその本読んでるのか?もうお昼休みだぞ』 一気に現実へと引き戻して来たこいつの名前はチャニョル。 僕の幼馴染だ。 チャニョルはとにかくデカくてクラスでも一番目立つ。 そしてうるさい、クラスのみんなと仲が良くていつも誰かとキャッキャ笑ってる。 いわばムードメーカーだ。 『ああ、お昼か。学食に行く?』 『たまには屋上で食べよう、弁当持ってきてるだろ?』 『うん』 屋上に行きチャニョルと昼飯、性格は真逆なのに何故か僕たちはいつも一緒にいた。 『そんなに面白い?その本』 『ああ、El Dorado?うん、夢が詰まってる。面白いよ。それに…この本は宝物なんだ』 この本は兄さんから貰った本だ。 兄さんは1ヶ月前、交通事故に合い今も意識不明の重体だ。 『ディオ、この本まだ読んでないだろ?お前にやるよ』 兄さんと交わした最後の言葉だ。 『兄さん早く目が覚めるといいね』 兄さんを思い出して俯く僕の頭をポンっと叩きながらチャニョルは笑った。 チャニョルだけには兄さんの事故の事やこの本の内容の話を話している。 伝説とされているEl Doradoもチャニョルだけはバカにしないでいてくれた。 きっとあるさ、って言っていつも笑ってくれる。 『お前まだこんな本読んでるのかよ。根暗やろー』 『…アルト』 アルトは同じクラスの不良グループのリーダーだ。 僕の事が嫌いらしく、いつも何かと絡んでくる。 『ディオ、もう教室に戻ろうぜ』 クラスメイトと仲がいいチャニョルでさえアルトとは距離を置いている。 『チャニョル、いっつもこんな奴とツルんで何が楽しいんだ?』 食べ終えた弁当を片付けその場を去ろうとするとアルトは僕の本を取り上げた。 『黄金郷ねぇ…そんなもんあるわけねぇじゃん。』 『返せよ…』 手を伸ばして本を取ろうとも僕よりも背が高いアルトには届かない。 チャニョルが変わりに本を取ろうとした途端アルトは本を裏庭へ投げた。 『なにすんだよ!!』 怒ったチャニョルはアルトの胸ぐらを掴み殴りかかった。 『チャニョルっ!』 『いってぇ…!おいチャニョル、お前もうこんな奴とツルむの辞めて俺たちのグループに来いよ』 『行かねーよ!』 もう一発殴ろうとするチャニョルを必死に止めに入った。 『チャニョル!もういいからっ!本探しに行こうっ!!』 『…ディオ…』 屋上を後にした僕たちは本が投げられた方向へ向かった。 『…ない』 どんなに探しても本は見つからなかった。 『ディオ、お前アルトにあんな事言われて何で怒らないんだよ、それにお前が大切にしてる本も投げたんだぞ!』 『…いつもの事さ、ほっとけばいいんだよ。それより本を探そう』 『ディオ…。わかった、探そう』 根暗やろうなんて言われ慣れてる。 本だって探せばいいんだ。 僕は、チャニョルが僕の事でそんなに怒ってくれた事が凄く嬉しい。 『あーダメだ!なんでないんだ!?』 結局本は見つからなかった。 『明日また探すよ、今日はもう帰ろ。こんな時間までありがとう』 『なに言ってんだよ、俺たち親友だろ!明日も探すの手伝うよ!』 『…ありがとう』 チャニョルは本当にいい奴なんだ。 たまに思うんだ、なんでいつも僕の側にいてくれるの? 次の日早起きして本を探しに学校へ行った。 『確かにこっちの方向に投げたと思うんだけどな…』 どんなに探しても本は見当たらない。 『よおディオ、早起きだな。』 声の方へ顔を向けると一番見たくない顔があった。 アルトだ。 『本を探してるのか?こっちにあるぜ』 『…………』 到底信じられないアルトの言葉だったが本を投げた張本人だ、怪しいがついていく事にした。 連れてこられた場所は体育館だった。 『本は?』 僕の言葉にアルトは馬鹿げたように笑う。 『本?そんなもんあるわけねぇじゃん』 アルトの言葉を信じた僕が馬鹿だった。 その場を去ろうと後ろを向いた途端いきなり背中を蹴られ僕は倒れ込んだ。 『痛っ…!』 『入学した時からお前の事気にくわなかったんだ。 いっつも本なんか読んで気持ち悪いんだよ、この根暗やろー!なんでチャニョルもこんな奴といつも一緒に居るんだろうな』 『…言いたい事はそれだけ?』 ジっとアルトを睨み上げると今度は頬を殴られた。 『その目だよ!その目が気にくわねぇーんだよ!』 何度も僕の顔や腹を殴り続け痛みで立てない僕の身体を足で踏んだ。 『お前、本当チャニョルが居ないと何も出来ないんだな。くっだらねぇ本ばっかり読んでるからだよ』 その時僕の頭の中の糸がぷつんと切れた。 『うわああああああ!!!』 ケンカなんか一度もした事ない。 こんな大声なんか一度も出した事もない。 怒りだけでアルトに殴りかかった。 『なんだよそのヒョロいパンチ、効かねぇよ』 勢いだけで立ち向かった僕の攻撃を避けたアルトはまた僕の腹を殴った。 『ぅっ…!』 痛くて立ち上がれない。 悔しい、こんな奴に…。 そんな時アルトの背後からバスケットボールが飛んできた。 『いってぇ…!』 顔を上げるとスラっとした長身で程よい筋肉がついた男が立っていた。 …誰? 『誰だお前』 『なにやってんの?』 男は投げつけたバスケットボールを手に取り呟いた。 『お前に関係ないだろ!』 殴りかかったアルトを華麗に避けた男は渾身の右ストレートを決めた。 たった一発で倒れてしまったアルトはピクリとも動かない。 『大丈夫?』 まるで彫刻のような綺麗な顔をした男は僕に手を差し出して言った。 『あ、ありがとう。大丈夫』 男の手を取り立ち上がった僕に男はフッと微笑んだ。 『朝からこんなところで何してたの?』 『本を探してたんだ。昨日こいつに投げられちゃって』 『本ってこれの事?』 そう言って男は鞄の中から僕の本を取り出した。 『あ、それ!』 『昨日裏庭で寝てたら落ちて来たんだ、君の本だったんだ。その本少し読んだけど凄く面白かったよ』 さっきまでの迫力が嘘みたいに無い。 屈託のない笑顔を向けてくる男。 『それなら貸すよ、助けて貰ったし。』 『え?いいの?ありがとう』 返して貰った本を再び相手へ手渡した。 『そういえば名前聞いてなかったな、僕はディオ。君は?』 『カイ』 そう言って本を受け取ると教室の方へ歩いて行ってしまった。 …カイ。 凄いかっこいいぞ。 僕が女だったらイチコロだ。 『ディオ!!顔腫れてるぞ!なんかあったのか!?』 廊下でボケっとしてたらしい。 僕の顔を見て驚いたチャニョルが慌てて近づいてきた。 『ああ、これアルトが…』 『アルト!?あのやろう…っ!!』 『待ってチャニョル!大丈夫だから。』 『…本当に大丈夫なのか?とりあえず保健室に行こう!』 チャニョルに引っ張られながら保健室に向かった。 『今日早起きして本を探しに来たんだ。そしたらアルトが邪魔をしてきて…。でもその後に本を拾ってくれた人が助けてくれたんだ』 『本見つかったのか?よかった、誰が拾ってくれたの?』 『…チャニョル、カイって知ってる?』 カイの名前を出した途端チャニョルはフリーズした。 大きな目を更に開けて固まっている。 『チャニョル?』 『え、あ、え。カ、カイ?』 『うん。カイ』 『カイが本を拾ってくれたの?』 『うん』 『カイがアルトから助けてくれたの?』 『うん』 『そうか…』 『チャニョル?』 『…お!ごめん、ああああ。カイね、知ってるよ、いい奴だなあいつは』 そう言って怪我した僕の手当をするチャニョル。 『カイと友達?』 『う、うん。まあね。はい、終わり!もう今度からは俺と一緒に居ないとダメだからな!』 『お、おう』 いつも変な奴と思っていたが、今日はいつもに増して変だ。 『…ディオ、カイは格好良かった?』 『え?ああ、僕が女だったら惚れてるところだったよ』 『はあああああ!?』 チャニョルのあまりの勢いに立ちすくんでしまった。 『いや、僕が女だったらって話だけど?』 『あ、ああ。なんだよ、ビックリするじゃん』 『いや、お前の反応の方がビックリだよ』 『確かにカイはイケメンだな。』 『うん、見つけて貰った本が面白いって言うから貸したんだ。カイは何組なんだ?』 『え!?あの本貸したの!?』 『うん』 『へぇ……』 『あ、おいチャニョル!どこ行くんだ?』 教室とは別の方向へ向かうチャニョルを追いかけた。 『チャニョル!』 『…あ、ボケーっとしてた、ごめんごめん。』 『まさか…チャニョルもあの本読みたかった?』 僕の言葉がツボだったのかチャニョルは笑い転げた。 なんだよ。 『うんうん、あの本読みたい!貸して!』 『カイから返って来たらチャニョルにも貸すよ』 さっきと打って変わって元気になったチャニョルは僕の肩を抱き教室へと歩き出した。
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