いつか、一緒にお茶を

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 ── つかれた。  それしか考えられないような時って、あると思う。  働いて働いて、気付けば何もかも無くなっていた。  頑張っても頑張っても、出口は見えず報われることすら、なかった。  頭に、ふっと空白が訪れて、身体が思い通りに動かなくなってしまう、そんな時。  ── その日の私は、まさにそんな状態だった。  何をするのもイヤになっていて、足は自然と神社に向かった。  ここの、緑に囲まれた明るく広い境内は小さい頃から慣れ親しんだ場所だ。  小学校3年生の頃までは、母や弟と弁当を持ってピクニックに行っていた。裏山のミヤマツツジを、母が好きだった。  そのせいか、大人になった今でも、時々、訪れたくなる。  信仰心などではなく、世の中のどこにも身の置き所がなくなった時に、少しの間居させてもらえる隠れ家…… そんな感覚だ。  白い石の鳥居を一礼してからくぐり、彫刻の竜の口から吐かれる水で適当に手と口を清めて、社殿に向かう。  鈴を鳴らして小銭を賽銭箱に入れて、二拝二拍手一拝。  昔に教えてもらった通りにお参りするが、これは、単なる 『ご挨拶』 である。すなわち、他人の家に黙って入っちゃいけない、ということ。  特に、願い事はしない。  神様を全く信じてないワケでもないが、神様と人間の関係って、人間とその辺にいる虫との関係みたいなものだと思っているから。  たとえば、蟻が 「人間がボクらのために何かしてくれる」 だなんて信じ込んだとする。そして、チマチマと集めたエサを差し出して何かお願いしてくるとすれば…… 困るか、ウザくなるか、じゃないだろうか? ── それに、何かを願うだなんて、そんな気持ち自体を私は忘れてしまってる。  人生も世の中も、どこまでも果てない灰色の広がりに過ぎない。私はただうつむいて、終わりが来るのを待つだけだ。  お参りを済ませて、適当に境内を散歩する。  境内の周りは雑木林になっていて、春はミヤマツツジが花をつけ、夏は緑の木立が涼しい陰を作り (蝉がうるさくて蚊がたくさんいるから、滅多に行かなくなるけど) 、そして秋も深まった今の時期は、赤や黄色に染まった葉がきれいだ。  ふいに。  『にぃぃぃ…… にぃぃぃ……』  か細い、鳴き声が聞こえた。
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