§ Year 10 / Summer Term 「Slipping Away」

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「くそっ、なんでだ! 俺はこんなによくしてやってるのに……なんで懐いてくれない! どうしてそんなに可愛げがないんだ、アンナにそっくりなのは顔だけか! もっとガキはガキらしく――」  撲たれてくらくらする頭をふり、セオドアは男の手から逃れようとして暴れた。「痛い、離して――」ともがいているうち、シャツの(ボタン)がはじけ飛び、肩から鎖骨の辺りが顕になった。ちくしょう、このガキと揺さぶる男がふとその動きを止め、恐怖に歪む少女のような顔を見下ろし、ごくんと生唾を呑む。 「――いうことを聞かせてやる」  セオドアの躰の上に跨がりベッドに押さえつけたまま、男はかちゃかちゃとベルトを外し、穿いているものを下げた。ぶるんと飛びだしたものを片手で扱きながら、それを得体の知れないモンスターでも見るような顔で凝視しているセオドアの眼の前に突きつける。 「ほら、口を開けろ……咥えるんだ。しゃぶるんだよ、キャンディバーみてえにな。……歯ぁ立てんなよ。立てたら半殺しの目に遭わせるからな」  頭を掴まれ、わけがわからないまま頬張らされ――セオドアは苦しさと込みあげてくる吐き気に涙を零しながら、縋るものを探すように手を伸ばして空を掻いた。  誰か、誰かたすけて――  たすけて……ママ。ママ、見棄てないで――  たすけて……ルカ―― 「ルカ――」 「お、起きたか」  その声に、テディはゆっくりと起きあがってきょろきょろと辺りを見まわした。 「なんか魘されてたな。バッド入っちまったか」  ロブにそう云われ、テディは眉をひそめてテーブルの上に置きっぱなしのグラスを見た。 「これのせい……? 俺、なんか寝言云ってた……?」 「ああ、云ってた云ってた」  同じソファで躰を伸ばしていたジェレミーが、にやにやしながら答えた。 「ルカ、ルカって名前、呼んでたぞ。噂の恋人だろ……同じ部屋なんだっけ」  いいなあ、やりまくりだな、と囃すジェレミーをテディは睨みつけ、ぱんっと腕を叩いた。 「そういうこと云われるの好きじゃないよ。あんたはそんなふうに云わない人だと思ってたんだけどな」 「はは、悪い悪い。色っぽい声で名前呼んでたからつい、妬いたのさ」 「色っぽかったか? 俺には苦しそうに聞こえたが」  ふたりのやりとりを聞いて、どうやら名前以外のことは云ってないようだとほっとし、テディは一本煙草を吸ってからジェレミーの部屋を出た。  時刻は正午まであと三十分、ちょうど四時限目が始まる頃だった。確か今日の四時限目は数学だったなと思い、テディは教室に戻る気も起こらず、シックスフォームの校舎と煉瓦塀のあいだを通って食堂の前を横切り、真っ直ぐ寮へと向かった。
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