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録音♯1
(ドアの開閉音)
(ゆったりとした足音)
(食器が鳴る音)
ーーどうして会う気になった? 俺が記者だと知ってるんだろ?
「勿論。僕を嗅ぎ回ってる事も知っています。興味が湧いたんです。あなたが僕に興味を持ったように」
ーー俺は事件を追ってここまで来た。東和電気の社長、松下が入水自殺した事件をな。
「自殺なら、事件じゃない」
ーー自殺なら、な。担当した刑事に遺体の写真を見せてもらった。外傷があったんだよ。これだ。
(乾いた物音)
「それで? 父は別荘のデッキから海に身を投げて死にました。その傷は身体を岩壁にでも打ち付けて出来たのでしょう。想像が付く事です」
ーー警察もそう言った。だがな、あの傷の出来方は岩壁なんかじゃない。鈍器だ。
「他殺だと、言いたいのですか?」
ーーそう。君の父親、松下明国は鈍器で襲われて気絶し、そのまま海に捨てられた。
「面白い事をいいますね。仮に他殺だとしても、父は顔が広い。恨む人間もそれだけいます。何故、わざわざ僕へ会いに来て、その話を改めてするのか、意図がわかりません」
ーー君の生い立ちを少し調べた。松下世道。女癖の悪い父親の明国と第一夫人の間に生まれた。医学部に入ったが直ぐに辞めている。その後何をしていた?
「放浪生活ですよ。あの頃の世間はとても物騒だった。少し気を休めたくて、海外へ行っていました」
ーー明国の女癖の悪さはどこまで酷かったか、知ってるのか?
「何を今更。父は偉大でしたよ。僕たちを養ってくれたんですから。こうして父の事業を継いでいますし何の不満もありません」
ーー君は愛人の子だった。そうだろ?
「……誰との子ですか?」
ーー人から聞いた話さ。明国には少なくとも二人の男子がいた。一人は第一夫人との子。もう一人が愛人との間に出来た子だと。
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