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録音♯2
(ティーカップがゆっくりと持ち上げられる音)
ーー君が松下世道なら、俺と同年代の筈だ。昭和二十年生まれのな。だが見た目、とても若く見える。君は、本当は……。
「別人じゃないのか、と言いたいのですか?」
ーーもう一人の……。いつ入れ替わった?
(高笑いの声)
ーーおかしな事を言ったか?
「兄はもう、この世にはいません。とうの昔に死にましたよ」
ーー松下世道は、死んだ?
(ティーカップがゆっくりと置かれる音)
「はい。死にました。首を吊ってね。父は後継を失いました。そこで僕が選ばれたんです。名前も世道に変わりました。いえ、変えられてしまいました。母から貰った大事な名前があるのに、ね」
ーー兄が死んだ話を楽しげに話すんだな。
「会った事もない兄です。でも僕と同じで、何かに強いられていた人生だったのかもしれません」
ーー何かに?
「そう。しがらみ、ですかね? それとも遺恨? 煮え切らない気持ちを抱えて」
ーー君は、誰なんだ?
「曽璽歩人」
ーー曽璽?
「そうですよ。あなたと同じ苗字だ」
ーーからかっているのか? 笑えない。
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