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ーー世道になった君は父親を襲い、海に捨てた。何故だ?
「僕はまだ認めていない」
ーーその顔は殺人鬼の顔だ。冷酷な人殺しの目をしている。
「酷いなぁ。証拠もないのにそんな言い草」
ーー動機は恨み? 愛人の子として生きるレッテルへの。
「……奪いたかったんです。全部」
ーー会社を奪いたかったのか? それとも人生そのものを?
「僕と松下明国には血縁関係がありません。赤の他人なんです。僕は母の連れ子でしかない。そんな奴が何かを求めたっていいんですよね。いいんですよ」
ーー何が言いたい?
「僕は、僕が一人の人間である事を求めたんです。僕の中にはちゃんと僕がいるんですよ。だけど、誰も認めてくれない。母でさえもね」
ーーそれが君の本当の姿? 君の兄は本当に自殺だったのか? 他に人を殺した事は?
(小さな笑い声)
「兄は首を吊って死んだんです。会った事もない兄です」
ーー認めるんだな。少なくとも松下明国の殺害は認めた筈だ。
(一瞬の間)
ーー君は医大生だった。何故辞めた?
「歩人でいいですよ」
ーー君が辞めた年と父親の死は関連があるのか?
「僕が医大を辞めたのは他にも人を殺したからですよ」
(椅子に座り直す音)
ーー他に、誰を殺した?
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