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ーー俺の事はいい。これはお前へのインタビューだ。
「曽璽さん、なぜ母を捨てた?」
(一瞬の間)
「曽璽伝助。昭和二十年十一月十三日生まれ。父親はソロモン諸島で若くして戦死。空襲で家族と家を失った母親はあなたと二人、闇市に辿り着いた」
ーー何故知っている?!
「唯一の肉親だった母親をなぜ捨てた? 夜な夜な男を招き入れていたボロ屋を飛び出し、縁を切って人生をやり直した。何故だ?」
(何かが床を打ち付ける音、摩擦する物音、騒音)
ーーお前は何者だ?! どこまで知っている!? どこで知った?! 誰が話したんだ!!
「質問が多いな。冷静になれ」
(何かを打ち付ける音、うめき声)
「伝助、ほら、座れ。次に殴り掛かるならちゃんと言えよ? 手加減が出来ないからな」
(途切れ途切れの吐息)
「落ち着いたか? それで、母親がどうなったのか、知りたくはないのか?」
(切らした吐息)
ーー……お前は??
「あんたの母親は、あんたが出て行ったきり戻らないと知ると、交易会社の社長の愛人となった。生きて行くためだ」
ーー……母親は、ろくでもなかった。
「それが逃げた理由?」
ーーあのまま居続けたら、俺は路上で飢え死にしていたか、ろくでなしになっていたか、そのどちらかしかなかった。
「母親はいつもあんたを思っていた」
ーーそんなはずはない。
「生きる為にしていた事だ。金持ちの愛人になってからは、その遊び金であんたを探しに闇市や下町へ出向いていた」
ーー嘘だ。
「愛人との間に子が生まれても、あんたの母親は、あんたしか見ていなかった」
ーーどうして声が震えている?
「生まれた子供はすくすくと育ち、何の不自由もなく過ごした。何だって手に入った。母親の気持ち以外は、何だって」
(深い溜息)
「気付かないか? 気付くはずないさ。その子は立派な医大生になった。母親は年老いた。年増になってから生まれた子供だったからな」
ーー……何を言っているんだ??
(笑いと嗚咽が絡み合う声)
「病に倒れ、意識が朦朧とする母は、そんな時でさえ」
(笑いと嗚咽が絡み合う声)
「そんな時でさえ……」
(笑いと嗚咽が絡み合う声)
「……あんたの名前を呼んでたんだ」
ーーあり得ない。そんな事。
「……だから、殺したんだよ」
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