152人が本棚に入れています
本棚に追加
/63ページ
1
「今日はもう上がっていいよ。」
マスターにそう言われたあの日、俺が素直に帰らなければ何かが変わっていたのかもしれない。
いや、その前に何度もチャンスはあったはずだ。
「高校時代からの悪友」とマスターは言っていたけれど、側からみたらマスターがあの人のことをめちゃくちゃ好きなのは明らかだったし、その上で気持ちを伝える気が無さそうなのも俺は気づいていた。
だから油断してた、といえば、そうかもしれない。
2人がどうこうなるなんて思っていなかったんだ。
今日あの人が店に来た瞬間「あ、この人達なんかあったな?」ってすぐに分かった。
何か具体的な言葉があるわけではなかったけれど、とにかく2人からピンクのオーラがダダ漏れ。
すっかり打ちのめされて、俺の片想いは終わった。
あの店でバイトを始めたのが1年前。
思えば一目惚れだった。
あの時気持ちを伝えていれば、という場面がいくつもいくつも浮かんでは消えていく。
こんなことになるのならキスのひとつでもしてやればよかったな。
そんな度胸一ミリも無いのだけど。
「あ〜ぁ。」
バイト帰り、駅前のロータリーの階段にうっかり腰を下ろしてしまったら、もう立ち上がる事ができない。
終電はとっくに行ってしまった。
ていうか、明日からバイトどうしよう。
「行きたくねぇー……。」
両手で顔を覆い、独りごちる。
最初のコメントを投稿しよう!