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俺は自分でもびっくりするくらい全力で走り狼の前に躍り出た。
俺の突然の出現に目を見開き真っ赤な顔で硬直する狼。
俺は息を整えつつにっこりと笑って見せた。
そして手を取り屋上へと連れ出す。
狼は下を俯きただ黙ってついて来た。
繋いだ手から伝わる熱がとても熱い。
俺まで熱が感染したみたいだ。
屋上への階段を上りながら、こいつは誰かに頼まれて俺の下駄箱に入れただけだとも思ったが、この態度からしてそれはない、と確信した。
ラブレターの送り主はこいつに間違いない。
屋上に着くと早速切り出してみた。
「それで、今まで100通もラブレターありがとう」
逃げ出さないように手を繋いだまま俺は笑顔を見せる。
狼は顔を真っ赤にさせたまま目だけがきょろきょろと動き落ち着きがない。
「キミがくれてたんでしょう?」
上目遣いで首を少しだけ傾げ壁際に追い込む。
狼のきょどり具合が更にひどくなったが、黙って見つめていると観念したのか真っ赤な顔を更に真っ赤にさせ目を潤ませながら俺を見た。
全身も小刻みに震えている。
孤高の狼に見えたがこれではまるで…狼に狩られる羊じゃないか。
見た目とのギャップに胸が騒ぎだす。
そこらへんの美少女なんかよりこれは………。
「好きです…」
かろうじて聞き取れるくらいの小さい声で狼が啼いた。
やばい、何これ?
ドキドキと更に騒ぎ出す心臓。
何このかわいい生き物!?
思わずにやけてしまう口を繋いでいない方の手で覆った。
何度も紙面上で告白されてきた相手に直接告白された。
震える身体、真っ赤な顔、潤んだ瞳、全てが可愛くてしょうがない。
「付き合おうか」
と気が付けばそう告げていた。
「俺なんかから好きだなんて気持ち悪いですよね。分かってます。気持ちを伝えられただけで満足です。ありがとうございましたっ」
俺の方を見ず俯いて俺から逃げようとする。
俺から逃げるな。
俺を見ろ。
俺だけを見ろ。
「付き合おう?」
繋いだ手に力を込めもう一度言うと、今度は真っ青になり信じられないものを見るような目で俺を見た。
「え?先輩意味わかってます?付き合うって事は先輩と俺が付き合うって事ですよ?」
「うんうん」
付き合う気がないなら何で100通もラブレター出したんだよ、と突っ込みたいが、慌てる姿も可愛いんだからしょうがない。
苦笑いで済ます。
本当可愛い。
「買い物に付き合って、とか遊びに付き合ってとかじゃないんですよ?その、恋愛的な意味で付き合ってって事ですよ?」
「うん。そのつもりだよ?」
俺の返事に目を白黒させて焦っている。
ちょっとおバカなとこも可愛いな。自分から告白して俺がOKしたんだからそこは抱き着いて「嬉しい」って言うとこでしょう?
何拒否ろうとしてるの?
そんなの許さないよ?
昔飼ってた犬のカインみたいだ。
俺が食べてたおやつを欲しがるくせに、分けてあげようとすると途端に慌てだす。ふふっ。
思わず髪に手を伸ばしゆっくりと触れる。
びくっと肩を震わせながらもそれを大人しく受け入れている。
そんな姿もカインと重なる。
自分でもびっくりだけどそんなお前を可愛いって思っちゃったんだからしょうがないじゃないか。
勿論犬としてじゃないよ。
ちゃんと人間として、触れたいし愛したいって思ったんだ。
不安そうに揺れる瞳が俺をたまらない気持ちにさせる。
俺の中の眠っていた雄が訴えかける。
この雌を逃がすな。
この雌を自分のモノにしろ、と。
「大丈夫。付き合おう?」
念押しして言うとやっと嬉しそうに、本当に嬉しそうにへにゃりと笑った。
その笑顔が可愛くて、つられて俺の頬も熱を持った。
胸の辺りがもぞもぞとくすぐったい。
俺の中に呼び起された雄の野性的な本能ではなく、初めての優しい何かが芽生えたのが分かった。
俺の愛しい狼もう放さないよ。
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