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「お前追いかけなくていいのか?」
去って行った先輩を見送りながら伊倉が言った。
俺はただ先輩の後ろ姿を見つめ動けなくなっていた。
「……」
「先輩怒ってなかったか?俺お前が不安がってたから先輩とどんな感じなのか実際見てみようと思って声かけたんだけど…」
「ど…どう、しよう……」
どばどばと流れ出す涙。声が震える。
「今からでも追いかけたら?」
「む、無理…。俺、俺先輩の事好きすぎてどうしていいかわからない…!」
「はぁ…お前なぁ…」
伊倉は呆れたようにそう言うとガシガシと後ろ頭を掻いた。
「大上、お前の話きいてると先輩多分かなり不安がってるぞ?先輩といる時のお前の態度おかしいもん。客観的に見て先輩に興味がないように見える」
「え?」
「声かける前少しだけ見てたんだけどさ、お前先輩が側にいるのに他の事考えてたり溜め息ついてたぞ?それ見て先輩変な顔してたし」
「そ、そんな……」
伊倉の話に真っ青になる。
「自覚なかったのかよ……」
「どうしよう………っ!!」
頭が真っ白になり震えだす。
俺は先輩と付き合えると思っていなかったから、付き合える事になってすごく嬉しかった。
実際付き合ってみると先輩は優しくて可愛くて、一緒にいるだけで俺の心臓はばくばくしっぱなしで、守りたいと思うのにこの手で汚したくなってしまって、どうしていいのか分からなくなった。
一方的な欲望を押し付けてはいけない。そう思うのに身体が先輩に反応してしまって、それを誤魔化すようにそっけない態度をとったりして。
好きすぎてどうしていいのかわからなかった。
「まぁ、俺に言える事は先輩追いかけて思い切って押し倒しちゃえ―――」
伊倉の言葉を聞き終わる前に走り出していた。
「ってくらいの気持ちでぶつかれよ、って言いたかったんだけど…」
残された伊倉の呟きを聞く者はもう誰もいなかった。
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