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結論から言って大上は追ってこなかった。
いちゃつこうとするのを躱すのも恥ずかしいからとか照れてるからだと思っていた。
だけどそれは違ったようだ。
いつの間にか俺だけが好きで、心が離れてしまったのを気づかなかった。
こんなに好きにさせておいて今更ひどいよな……。
俺は制服の胸の辺りをぎゅっと掴んだ。
胸が締め付けられるようだ。
いいよ。わかった。
お前の事放さないって思ってたけど、お前の事が好きだから、俺は身を引くよ。
俺は欲張りなんだ。
惰性で恋人やっていけるほど図太くもない。
お前と一緒にいられただけで楽しかったのにな。
お前ともっと深く繋がりたいと思った俺がいけなかったのか?
お前はそれが嫌だったのか?
大上の事を諦めようとしたが、どうしても諦める事はできなかった。
でもやっぱり…!お前を失う事なんて考えられないよ!大上!
踵を返した瞬間、涙でぐちょぐちょになりながら走って来る大上が見えた。
「先輩!」
「大上!」
大上は俺を力いっぱい抱きしめた。
「―――来るの遅い…」
そう言いながら俺の口元は笑っていた。
大上は「すみません」と言うと俺を抱き上げた。
は?
所謂お姫様抱っこだ。
そしてにっこりと微笑むとそのまま走り出した。
え?
「大上…??」
「先輩、黙っててください。じゃないと舌噛んじゃって危ないです」
そう言う大上の顔は真っ赤な顔でふるふる震えていた羊でも犬でもなくキラキラと輝く狼のようだった。
ど……?
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