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線路沿いの道を歩いて、息を切らせつつ歩道橋を渡り。駅前のカラオケ店やコンビニが立ち並ぶ大通りをまっすぐ進んで、二つ目の信号で右へ。そこから伸びる長い坂を上った先に、四丁目のエリアがあるのだった。
その坂がまた、急勾配なのである。車がスリップしないように、滑り止めの丸い凹みがついているあたりお察しなのだ。マンションがいくつかと、少数の戸建が点在しているが、住んでいる人々は毎日この坂を上り下りしているのかと思うと気の毒になってくるほどである。なんせ、駅へ向かうにはこの急勾配の坂道を下る以外に方法がないのだから。
「ふいいい……」
まだ一枚も配っていないのに、坂道を登りきる頃には俺は息も絶え絶えとなってしまっていた。これから配布本番だと思うと、心底げんなりしてしまう。
「坂田さーん……俺もう、ここに配るの嫌だって言ったじゃないですかーもー……この坂道見てから言ってくださいよ、まったくもー……」
思わずグチグチと呟きながら、すぐ傍の公園のベンチに座って一息ついた。まだ蝉が鳴いているような八月下旬。陽が落ちてきた夕暮れの時間帯を狙って出発したとはいえ、少し歩けば汗だくになるくらいには日差しが強い。
リュックから飲み物を取り出しつつ、公園の真正面にある小さな神社の鳥居を見つめた。一体何を祀っているのか知らないが、その神社の鳥居は少し妙な形態になっている。黒い鳥居が短い間隔で三つも並んでいて、本殿に近づくにつれサイズが大きくなっているのだ。
そして、一番出口のあるところには、立札が立てかけられている。そういえば、担当の坂田は四丁目の地図を配る時、ちょっと妙なことを言っていたのではなかったか。
『坂道上った上にある、●●神社なんですけどね。立札が立ってるんで、それ読んでから中に入ってくださいね。ポストは、社務所の入口の横にあるんで、そこにもチラシ一枚入れてきてください。神社を売り買いするなんてしませんけど、裏に神主さんが住んでる一戸建てがあるんです。社務所のポスト、神主さんの家の人宛の郵便用も兼ねてるみたいなんで』
『はあ……。それはいいけど、立札って?なんか禁止事項でも書いてあるんです?』
『そうですね。その神社昔からあるんですけど、うちの会社でも有名なんですよ。なんか、その立札に書いてあるルールを破ると、おかしなことが起きたりするらしいです。私も詳しく走らないんですけどね』
――おかしなこと、ねえ。
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