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ああ、どうすれば良かったのか、今ならわかる。
俺は普通にあの日、賽銭を入れて帰れば良かったのだ。それだけで、恐ろしい思いなどすることなどなかった。たった百円五百円がなんだというのだ。そんなもの、命と平穏な日常に比べたらなんら惜しいものではなかったというのに。
「だ、だれか」
今。
俺はまだ、神社の境内にいる。もう時間が、ねじ曲がったように戻ることもない。
けれどもう、俺は何処にも“戻れない”。真っ赤な空が広がる神社の境内、黒い石畳の上。誰もいない場所にひとりぽつんと残されたままでいるのだ。
此処に閉じ込められている。出られない。逃げられない。誰にも見つけて、貰えない。
「だれか、たすけてくれぇっ……!」
規則は、意味があるからこそ規則なのだ。
いくら後悔したところで、どうせもう、俺の声など誰にも届きはしないのだろうが。
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