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「……でも、その天才過ぎる妹さんには、ちょっとした問題があったんですよね」
彼女は、告げる。
至ってシンプルに、至って簡潔に、至って冷静に。
冷静を保てていないぼくとは――回りくどい言い回しをいつもより多くしているぼくとは、大違いだ。
「…………そう。そうだ。その妹には、問題があった。頭は良くて、スポーツも万能。友達も沢山居て、メチャクチャ悪いことなんてありゃしない……寧ろ無縁な存在でもあったのだけれど」
問題という程の問題ではない。
始まりは、ある日妹が怪我をしたという話からだった。帰ってきたら右手に包帯をぐるぐる巻いていたのだ。左利きだったから――クロスドミナントという訳ではなく生粋の――別段、ペンや箸の持ち方については気にすることはなかったのかもしれないけれど、しかしながら、やはり怪我をしたというのは家族一同大問題だと思った訳で、彼女を問い詰めた。
さながら、犯人を追い詰める警察の取り調べの如く。
しかしながら、それをしたって当然明確な回答が得られる訳でもなく――、ぼく達家族は妹から明確な怪我の理由を聞きそびれてしまった、という訳だ。妹が上手く躱した、と言っても良いだろう。
しかし、そうなると――やはり気になるのは、怪我をした理由。
妹は陸上部に入っているのだけれど、陸上部で怪我をしたならば、顧問の先生が何か言ってきても良いはずだ。しかし、翌日になっても連絡は来なかったし、挙げ句の果てに顧問の先生自らが怪我について問い質した一面もあった。
つまり、部活動で出来た怪我ではない。
であるならば、いつ何処で起きた怪我だと言うのだろうか?
「……ふむふむ。やっぱり気になるところではありますよね。是非とも調査したいところではありますけれど」
そう、まるで彼女は探偵のような言い回しをした。
「わたしは探偵じゃありませんよ。わたしはそう……サムライです」
多分その発言は二度目だったな――でも、サムライが調査して解決することなんて、出来るのだろうか?
「出来ますよ。わたしはそういう専門のサムライですから」
自信満々に言ってのける彼女だったけれど、その見た目はやはり未だ幼稚な雰囲気が残っていた。決して馬鹿にしている訳ではない。ただ、このような見た目をしていて、そんなあっけらかんと物事を口に出来るのか――ぼくはそこに着目していたのだった。
そのサムライは、令和唯一のサムライ。
何故彼女がサムライとして活動しているのか、そしてそのサムライとどうしてぼくが出会うことになったのか――先ずはそれから語らねばなるまい。
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