第一章 令和最初の退治屋

3/12
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/129ページ
 そして、その戸松団地の都市伝説の中で、まあまあ有名なのが『開かずの605号室』。簡単に言ってしまうと、既にタイトルでネタバレをしてしまっているのだけれど、旧館A棟――この戸松団地で一番古い建物だ――は、ところどころ崩壊の危険性があるため、四階以上の立ち入りを禁止している。現在でも三階までは人が住んでいるために、建て替えや取り壊しも難しく、何とか交渉していきつつ現在に至っているその建物なのだが、夜になるとヤンキーのたまり場になるらしいのだ。実際、管理事務所にも苦情は寄せられているようで、監視カメラや巡回などでどうにかこうにかして対策を練ってはいるらしい。  しかし、いたちごっこという言葉でもあるように――対策をしたところで、その対策というのは百パーセント穴を塞ぎ切れていないものである。ならば当然その穴を突いてくることは、想像に難くない訳で、その穴が予想も出来ていないところであるなら、猶更その対応には時間がかかるという訳だ。  そして、旧館A棟は古い建物だからかもしれないけれど、ヤンキーも居れば度胸試しでやって来る学生も多いんだという。まあ、近所に大学がちらほらあるから、大学が一つあればそのうち一パーセントでもやんちゃな学生は居るだろうな……。別に大学という高等教育機関そのものを否定するつもりはないのだけれど、もっと学業に励んで欲しいとも思う訳だ。一応、親が出してくれている学費で通っているのだから。その言葉は、そっくりそのままぼく達に跳ね返ってくるのだろうが。  ……脱線してしまったので話を戻すと、旧館A棟に度胸試しに行ったあるカップルが、その話の発端であると言われている。カップルが度胸試し……、実際には肝試しって言うんだっけ? まあ、どちらでも構わないのだけれど、その度胸試しにやって来た時に、ゆっくりと登って六階まで向かったらしい。  旧館A棟は七階建てで、屋上にある景色を見て終わりにするのが度胸試しのルールらしいのだけれど、それが起きたのは度胸試しの後半戦、六階に進んだ時のことだった。六階のワンフロアは当然昔から誰も住んでいない訳で、人の気配なんてするはずもないのだけれど、その時は人の気配がしたらしい。  その場に居たら、怖くて動けなかっただろうな……。そしてそういう態度を取ったのは彼女さんの方で、ビクビクしていたけれど彼氏の方は何とかその気配のする方までやって来ていたらしい。その部屋が、605号室。何処も扉は開いているはずなのに、そこだけはびくともしない。電気も点灯していて、誰か人が居る様子すらあった。  ノックしても、インターホンを押しても当然反応しない。不気味になりながらも振り返ったその時、彼の背中からこう声をかけられたのだという。  もう帰るの? と。  慌てて彼氏は彼女の居た所に戻る――というかそこで女性をひとりぼっちにしていた彼氏にも問題はある――のだけれど、彼女は居なかった。結局行方不明になってしまって、ショックで彼氏も精神を病んでしまった……という話。  これが、戸松団地に伝わる『開かずの605号室』、その顛末である。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!