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後ろの弘は眉を顰めた。彼としては不躾で、不快な尋ね方だと感じた。
「……大丈夫、いい感じだ」
春樹は如雨露を水平にして、左腕をひらひらと振る。
「ちょっと見せてくれよ」
「いいぞ」
大地が春樹の左腕の袖を捲くりだす。
弘は身体の芯に小さな痺れが走って、顔を背けた。
「最新のだってな。よくできてるんだな」
「まあな」
そんなやり取りを聞き流しながら、弘は冷や汗をかく。
昨年の夏、自分もあんなふうに春樹の左腕の袖を捲くったのだ。
当時そこには、生きた腕があった。
まだ、バレていないはずだ。
その腕のためにわざわざ、春樹に睡眠薬を盛ったこと。
※
弘が春樹と知り合ったのは、大学内でのことだ。些細なきっかけがあったはずだが、なぜかもう思い出せない。
出会いの印象よりも弘の脳に強く刻み込まれた衝撃、それは春樹の左腕だった。
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