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作家の筧大地が筒石邸を訪ねてきたのは、昼前のことである。
蔵坂弘は正直に言えば、その来訪が面白くなかった。筒石春樹から、大地もやってくると知らされたのは直前になってのことだ。
目立つ黒塗りの高級車が、夏の暑苦しい日差しを割って、筒石邸の門を潜る。弘にはそれが、何か禍々しいものの訪れに思えた。
玄関前の車止めに車は止まる。威圧的でさえあるそれに、かつて弘は、作家とはそんなに儲かるのかと不思議に思ったことがある。筧家自体がそもそも裕福なのだとすぐにわかったのだが。
車から降り立つ大地は挨拶もせずに、玄関に立ちふさがるようにしている弘に尋ねた。
「春樹は?」
「温室」
弘はぶっきらぼうに答える。大地を好いてないことが滲み出ていた。
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