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 昔から、社会の重要な部品になりたかった。そうでなければ、生きる価値すら存在しないような気がして、常に不安で仕方がない。両親の望むような人間になれれば、幸せになれる。自分を褒めてくれる人達をがっかりさせてはいけない。平均値以上の人間を目指さなくては意味がない。そして、そんなものをすべて放棄し、自由に生きている人間、自分の能力を発揮できずにいる人間は、総じて怠け者で、馬鹿で、努力不足で、自己中心的で、親不孝で、将来性もなければ生産性もなく……  こんな考え方は間違っていると頭ではわかっていたが、そうした極端な思考は、太陽を見た後にちらつく残像のように目の前に現れて、目蓋を閉じても常に視界に存在し続けた。  そんな風にして、私はひたすら自分の墓穴を掘り続けた。深い深い穴だった。今の自分は両親の期待とは正反対の立場で、そのくせ自分の意思で自由に生きることすらままならないのだ。かつての私の言葉が、思想が、行いが、今の私を容赦なく真っ暗な穴の底に突き落とす。毎晩毎晩飽きもせず、それは頭の中にやってくる。私は頭の中で反響する自分の言葉に自分で傷つき、悲劇のヒロイン気取りで頭を抱えることしかできない。 「ごめんね」  ふいに、瑠衣が私に謝った。 「何が?」 「私が愚痴る相手に陽葵(ひまり)を選んだ理由、自分より苦労してそうだと思ったからなんだよ。何て言うか、絶対に私を責めてこないような気がして。私の周りって、意外と冷静な人が多いから、愚痴ってもただひたすら冷めた正論で諭されるオチしか見えなかったんだよね。逆に追い詰められそうで怖くて……無意識のうちに、自分にとって都合のいい存在を選んじゃったんだと思う」  何故か、急に涙が出てきた。瑠衣は突然泣き出した私を見て、逆にこちらがびっくりするほど派手に取り乱した。 「べつに利用しようとかそんなつもりじゃないよ! なんか、わかってほしかったっていうか、冷静な正しさでバッサリいかれたら逆ギレしちゃうような気がして! 親から陽葵の話聞いた時、無性に顔見たくなっちゃって……」 「大丈夫だよ。ほぼ毎日、こんな感じだから」  慌てる瑠衣に対し、私は涙を拭いながら言う。だが、一体何が大丈夫だというのだろう。すっかり動揺した瑠衣はひたすら「ごめんね」をくり返し、やや強引に私を抱きしめたり、大袈裟に背中をさすったり叩いたりした。  辺りがすっかり暗くなると、海風を冷たく感じ始めた。ぽつりぽつりと水滴が肩の上に落ちてきて、それが雨だと気づくまでに少し時間が掛かった。  私達はもと来た道を引き返し、ファミレスの駐車場に停めっぱなしの車に乗り込んだ。雨粒の付いたフロントガラスの向こうに、雲の中へ消えていく三日月が見えた。 「帰る?」  私が聞くと、瑠衣はうーんと唸って顔をしかめた。あまり乗り気ではないらしい。 「ちょっと行きたい所があってさ。中学の校舎、今取り壊し中らしいじゃん。どんな感じになったのか見てみたい」  地元の中学校は老朽化のために解体工事が進められていた。再来年には新校舎が完成し、隣町の中学と合併するらしい。 「いいよ。瓦礫の山しかないだろうけど」  私は車のエンジンをかけると、小雨の降るなかゆっくりと国道を走った。
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