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04 アルトの心境
俺は長い事孤独だった。
クリスティーゼ姫に会う前までは、世界中の命運を背負わせてている事に耐え切れず、潰れてしまいそうだった。
そんな俺を救ってくれたのはクリスティーゼ姫だ。
俺の最愛の人で、何よりも大切な俺だけのお姫様。
物心ついた時から、たぐいまれなる才能を発揮した俺は順調に力をつけていき、あっというまに勇者になった。
しかし、大きすぎる力が幸福を呼ぶとは限らない。
世界中の人間から期待を寄せられていき、それは徐々に過剰な重みになっていった。
世界平和、正義の象徴、魔王討伐。
俺の人格を無視して、俺の平穏に過ごしたいという願いも考えられず、人々は勝手な幻想を押し付けるばかり。
そんな日々に嫌気が刺した俺は、ある日一人の少女の前で弱音を吐いてしまった。
うかつだとすぐに思った。
けれどその少女は、そんな弱い俺をすぐに受け入れて慰めてくれたのだ。
「大変だった」とか「よく頑張った」とか。滅多にかけられないそんな言葉を、その少女は俺に惜しみなくかけてくれた。
魔物の討伐も、人々への演説も、勇者だからできて当然だとは一言も言わなかった。
最初は、身分を隠して話をしていたけれど、俺が勇者だと分かっても、少女の態度は変わらなかった。
そして、その少女は俺に嫌なら逃げても良いと言ってくれたのだ。
世界中の人々が俺を悪く言おうとも、俺の味方でいると、そう約束してくれた。
俺はその時、心の底から彼女を眩しく思った。
とても素敵な宝石だとも思った。
だから手に入れようと考えたのだ。
かのならば、この腕の中に抱いていたいとそう思い、俺はやっと彼女に惚れた事に気がついた。
だから、その少女クリスティーゼ姫が攫われた時はいてもたってもいられなかったし、魔王の元から救い出した時は喜びが溢れんばかりだった。
彼女が無事ならそれでいい。
他には何も望むまい。
そう思っていたくらいだ。
けれど、彼女が俺の事を愛していてくれたと分かったら、歯止めが効かなくなった。
「クリスティーゼ姫、姫様。愛しています」
「えっ? はっ、はい」
照れて恥ずかしがる彼女の様子は何と愛らしい事か。
彼女以上の宝物など、この世界にはない。
勇者としての責務は果たした。
だから、俺はもうただのアルトとして彼女と幸せになりたかった。
クリスティーゼ姫ならばきっと、そんな俺の気持ちを分かってくれるだろう。
「姫、俺の気持ちを受け取ってくれるね」
「えっ? ええ、まあ。(こっ、怖い。この人いったい何を考えているんだろう)」
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