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秋の日の午後、老人が、見慣れない女子高生に、
「それ、空き家だよ」
と声をかけた。
女子高生は、町外れの古く寂れた平屋の家を、塀の外からじっと眺めている。
「ちょっと前まで女の子が住んでたみたいだけど、もういないんだよ」
するとそこへ、大きな蜂が、羽音を立てて飛んできた。
老人は悲鳴をあげて逃げ出したが、女子高生の方は、その蜂に右手のひらを差し出した。
「お嬢ちゃん!」
老人は叫んだが、蜂は結局、そのまま飛び去って行った。
女子高生はため息をついて、再び空き家に向き直った。
■■■
瞼を閉じて、私は、近くの山中にある、男性の死体の場所を思い浮かべている。
私の頭の中から放たれた無数の糸が、その死体の傍でうごめく、無数の虫につながっているイメージ。それをさらに拡大する。
もっとたくさんの虫が要る。この死体を食べてくれる虫が。
虫たちに私の意思を送り、「お願い」を聞いてもらう。
見えない糸で私とつながった虫は、単純な「お願い」であればその通りに行動してくれた。
男性の死体が、瞬く間に大量の虫で覆われて黒い繭のようになっているのを、虫を通して感じる。
自分の目で見るようにははっきりと視覚化はできないけれど、虫たちの目の前で何が起きているのかくらいは把握できる。
山中の虫を総動員すれば、骨までは無理でも、一晩でかなりの肉を食い進められるだろう。
死体がかさばらない状態になれば、後は回収に来る「依頼者」たちが、適当に処分するはずだ。
そうして、私の通帳には数日後に多額の報酬が振り込まれる。
あの三島夏瑚は、どうしてあんな「依頼者」たちと知り合いなのだろう。
高校の同級生である夏瑚は、中学の時も同じ学校の同じクラスだったのに、いまだに得体の知れないところがある。
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