謎の占い師

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謎の占い師

 薄暗い路地裏で机を挟んで向き合う二人の女がいた。一人は若い女、もう一人の女は紫色のローブとフェイスベールで隠れ容姿も年齢も窺い知ることは出来なかった。ローブの女は机の上にある水晶玉に手を翳し怪しい動きをしながら覗き込んでいる。急にその動きを止めると、唯一見える目をカッと見開いた。 「あんた今の彼氏との結婚は諦めな。その男、あんたの他にも女がいるよ」 「やっぱり、あいつ浮気してたんだ!」  ローブの女がしわがれた声で告げると若い女は心当たりがあったのか激昂して叫んだ。握りしめた手は力が入りすぎているようでブルブル震えている。 「あんたには気の毒だけど、本命は別の女のほうみたいだよ」 「うそ……」  若い女の目は自分が浮気相手といわれ、かなりショックを受けたようだ。殺気がみなぎっていた目は虚ろになっている。 「そんな最低野郎とはさっさと別れちまいな。あんたは可愛いんだから糞野郎なんかに時間を使ってちゃもったいないよ。それに……」 そこで言葉を区切り、もう一度水晶玉を確認するように覗き込む。 「近々新しい出会いがあると出ている。今度の日曜日、駅前のフルールていう名前のケーキ屋に行ってみな。あんたの事を大事にしてくれる男と出会えるよ。相手は白のニットを着ているようだ」 「本当ですか!」  新しい出会いを示され、若い女は弾んだ声を上げた。 「あぁ、ラッキーアイテムはワンピースだ。めかしこんでいくと良い」 「はい!ありがとうございました、グレース先生!」  若い女が出ていくとグレースと言われた占い師は立ち上がり、すぐに店じまいを始めた。片付けが終わると、纏っていたローブとベールを外す。 「これでようやく約束の百人目ね」  現れたのは先程までの声からは程遠い、三十代ほどの女性だった。彼女はごく一般的な会社員だったが、占い師の真似事を始めたのは一年程前に遡る。    
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