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首から─彼岸花が咲いていた。
その花弁はベッドに座る彼の、背後の白い壁にひゅうひゅうと放射状にくねりながら伸び上がって、その赤の鮮やかさを見せつけている。こんな大輪の花は見たことがなくて、その鮮烈さにしばらく思考が停止していた。
白い部屋、薄青の衣服、だらりとベッドの柵にもたれ掛かっている彼の手元の、赤いナイフ。彼の頭以上に大きい、真っ赤なその花の正体は──
彼の首から飛び散った血飛沫だった。
そうわかった瞬間、鉄の臭いが急激に鼻孔を埋め尽くす。鼻がもげそうなほどの血の臭いに犯されながら、大きく裂かれた彼の首筋の傷を両手で押さえ付けた。止まれ。何度も心の中で念じて、必死に力を強くしていく。捲れた皮膚の襞の感触が手のひらに、指の隙間から這い出てくる赤い液体が手の甲に、こびりついてくる。熱が、零れ落ちていく。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ。
必死に押さえ付けた手のなかで、脈動が弱まっていく。対して、こちらの鼓動はひどく高鳴っていた。どくどくと、強く強く。揺さぶられる。
待って、待って、まって! おねがいします! 助けてください! 神様どうか、おねがいします! おねがいだから!
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