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第1話 ひくつの渦
思い出の中の思い出はそれはもう花びらが舞う美しいものだった。思い出フィルターを何重にかけたとしても、きっとあの頃の方が美しかった。
私は、あの時に一生分の運を使い果たしたのだと思う。
あの高台正義が、私を好きだとそう言って、笑った、あの時に。
もしかしたら、夢だったのかと思うほどただただ美しい思い出だ。
たった一枚の写真。それだけが“夢じゃない”そう言っていた。
卒業式のあの日に撮った、二人の写真はちゃんと証拠の役割をしてくれている。二人の距離感がちゃんと、正義も私を好きだとそう伝えてくれているのだ。私の顔は変だけど……
あれから何度も咲いた桜も金木犀の芳香も他の誰かが隣にいて、思い出は塗り替えられて、そんなこともあったかと掘り起こして探さないと思い出せない、そんな程度の思い出なんじゃないかな、彼にとっては……。
あの頃がピークだった私とは違う。常に今がピーク、そんな人生を歩んでいることだろう、彼は……。
そう卑屈に思い始めた、10年後。
今の私の手元には何も残ってはいなかった。
1枚の写真は当時のスマホで撮ったもの。プリントすると画像が粗く、10年も経てば色褪せる。
「ねぇ、高台くん……」
話したいことがあると心の中で話しかける癖は年々減っていった。
話したいことも、卑屈過ぎて笑えない。
「カッコいいんだろうな……ずっと……」
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