第1話 ひくつの渦

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次は少し奮発して、駅からは少し遠くなったけれどセキュリティのしっかりしたマンションに引っ越した。 引っ越しに、家財道具、高くなった家賃。出費がかさんだけれど仕方がない。ちょうど元彼の嫌な思い出も一掃されて良かったのかもしれない。そう思ったのも束の間…… 3つ目。勤めていた会社が倒産した。収入がなくなり、額は少なくともそれを見込んでいたボーナスも払われないだろう。家具……買ったのに。家賃も……少ない貯金はすぐに底を突きそうだ。 慌てて始めた就活も、ことごとく撃沈していた。 「あのねえ、萌香のせいでもあるんだからね」 目の前の宏江は呆れた表情を保ったまま同じ言葉を繰り返した。宏江は3ヶ月も無職の私と違い無職の期間などなくさっさと次の就職を決めていた。 「一回目の不渡り出した時に気づこうよ」 「全然知らなかった」 「あのねえ、あの狭い中で気づかないとかどうかしてる!」 「……教えてくれたっていいじゃない」 と、メソメソ言ってみたけれど 「まさか気づかない人がいるなんてことを気づかなかったわよ」 と、一蹴されてしまった。私のせいでもある。ああ、本当に私ってどうしてこんなにダメなんだろう……。 そりゃあ少しは失業保険も出るけれど……そんな一時しのぎで何とかなるわけもない。 笑えないくらいの、人生の大ピンチだった。
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