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「とにかく、今度はしっかりまわりを見て、ここまで落ちたらもう上がるしかないんだから」
宏江から見ても、今の私は……どん底にいるらしい。
「うん、ありがとう」
心配してくれてるのは確かだから、そうお礼を言った。
「派遣とか契約とか正社員以外でも探してるんでしょ?」
「うん、バイトでも何でも一旦働かないとまずい」
「社員登用もあるからね、まずは行動! ね?」
「うん」
「ここは、奢ってあげるから、元気出して!」
「ありがとう、宏江~! 今度は奢るからね」
「……期待せずに待っとく」
宏江は笑いながらも心配そうな視線をよこした。
「いい報告、するからさ」
……桜並木を通ると、枝先にはまだ固い固い蕾。あーあ、この桜が咲く頃には笑っていたいな。緑色の小さな突起にそう誓った。
桜の木は高台くんを思い出す。仕方がないのかもしれない。私はあの時、一生分の運を使いきったのだから。あの笑顔が私に向けられた時に……。
だとしても、思い出にして生きていくくらいなのだから、せめて平凡な人生くらいは歩ませて欲しい。
1本の桜の木の下、大きなため息を吐いて、止めていた足を動かした。
ブーブーブーブーと鞄の中の振動にもう一度足を止めた。求人に応募した会社からだった。
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