第1話 ひくつの渦

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「とにかく、今度はしっかりまわりを見て、ここまで落ちたらもう上がるしかないんだから」 宏江から見ても、今の私は……どん底にいるらしい。 「うん、ありがとう」 心配してくれてるのは確かだから、そうお礼を言った。 「派遣とか契約とか正社員以外でも探してるんでしょ?」 「うん、バイトでも何でも一旦働かないとまずい」 「社員登用もあるからね、まずは行動! ね?」 「うん」 「ここは、奢ってあげるから、元気出して!」 「ありがとう、宏江~! 今度は奢るからね」 「……期待せずに待っとく」 宏江は笑いながらも心配そうな視線をよこした。 「いい報告、するからさ」 ……桜並木を通ると、枝先にはまだ固い固い蕾。あーあ、この桜が咲く頃には笑っていたいな。緑色の小さな突起にそう誓った。 桜の木は高台くんを思い出す。仕方がないのかもしれない。私はあの時、一生分の運を使いきったのだから。あの笑顔が私に向けられた時に……。 だとしても、思い出にして生きていくくらいなのだから、せめて平凡な人生くらいは歩ませて欲しい。 1本の桜の木の下、大きなため息を吐いて、止めていた足を動かした。 ブーブーブーブーと鞄の中の振動にもう一度足を止めた。求人に応募した会社からだった。
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