第1話 ひくつの渦

7/7

1649人が本棚に入れています
本棚に追加
/180ページ
贅沢は言ってられない。選んでもいられない。 案内されたのは、産休育休の人の代わりという約1年という期間限定の仕事だった。既に決まっていた人が急に断ったとかで……急ぎで探しているとのことだ。 例え、期間限定でも大手企業……そんな大手企業に私が勤められるとは思えない。急ぎだからこそ私でもいいのだろう。 卑屈で言っているわけではなく、本当に何も持っていない、私は。宏江の言うようにぼーっと過ごしていた。スキルアップの努力もしなかった。 定時で帰れるそうだからこの1年でスキルアップの勉強しよう。1年後にちゃんと正社員で働けるように……。 一先ずほっとした。家賃と生活費くらいは何とかなりそうだ。 それでも、これからに不安を抱かないわけではなかった。学生時代よりカツカツで情けない限りだ。 どうなっちゃうんだろう、これから……恋人もいなくなって、まともな職もなくなって。 高校時代(あの頃)は、 こんなことになるなんて思ってもみなかった。 受かるだろう短大に進学できてほっとして、小さな会社に就職できてほっとして、いつもそうだ。自分のレベルで生きてきた。それでいいと思っていた。 そんな努力もしてこなかった28歳の自分がどうなってるかなんて考えもしなかった。
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1649人が本棚に入れています
本棚に追加