司書というお仕事

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 私はこの図書館で、司書として働いている。  司書とは、本のスペシャリスト。貸出業務のみならず、利用者の求める本を探し出し、保存し、啓蒙する仕事である。  本を読むのが好きな私が司書になるのは当然の流れであり、更に言えば師匠が良かった。    同じく司書であった師匠は、いつも辞書を引きながら仕事をしていた。支障がないかと言われればあったが、如何なる事情か、私情がなぜか認められていた。  師匠は自称であった。幼気な少女に師匠と呼ばせる子女であった。その師匠がやたらと私に本を推奨したのである。なぜだか師匠は、私の好みをバッチリ掌握していた。  私はそのお陰ですっかり本が好きになったのだ。  師匠はある日、自傷した。血に塗れ、己を嗤笑する師匠に、私はどうすればいいのか分からずただオロオロとした。  師匠は救急車で運ばれ、一命を取り留めた。後に聞けば、「私が全ての書を読む事が出来ない事に気付いて失望した。死後には図書館があって、全てを知る事ができるそうなので行こうと思った」との事。非行である。    そんな師匠の姿に、しかし憧れた私は師匠と同じ司書を目指した。彼女の選ぶ本はどれも面白かった。私も、きっと同じ事がしたいのだ。  彼女は帰郷の折に、桔梗を手折り、私の髪に刺した。ニコリと笑って、そのまま失踪した。師匠の生涯最後の姿だった。  あの人の、本への思想を思う度、異常であったと思うと同時に、その愉快な生き様に失笑せざるを得ないのである。  大好きな師匠はきっとまたどこかで少女に師匠と呼ばせて司書の道へ導いているのだろう。
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