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「熱がある。宿のあてはない。食べ物はありがたいが、もっと必要なのは屋根とベッドだ。そのパン、持て余しているなら受け取ってあげてもいいが、この雨だ。あなたの家へ行く」
恐ろしくぶっきらぼうかつ高飛車に、少女は宣言する。
「ええと? 熱があるのはその子?」
少女の手の中で、蜂蜜色の髪を乱してくったりとしているのは、見るも可憐な美少女だ。顔立ちはやや似ているようにも見えるので、姉妹かもしれない。
「そう。この子だけでも助けて欲しいと言いたいところだが、知らない人間に預けるわけにはいかないので、私も当然ついていく。あなたの家はどこだ」
「家……?」
(あれ……? 何か知らないうちに決定事項になっています?)
「濡れたら熱が悪化する。早く」
「あの、君たちの家は?」
急かされたので聞き返したら、少女はすうっと目を細めて冷ややかに言って来た。
「どう見ても訳ありに、そんなこと聞いてどうする。答えるわけがない」
「な……、なるほど?」
(いや、ここ納得している場合じゃない。何か言い返さないと)
思ったそのとき、少女の腕の中で、小さな子どもが呻き声を上げた。目を閉ざしたまま、はあ、ともらした息がいかにも熱そうだ。耳を澄ますと、ぜぇぜぇという苦しそうな呼吸も聞こえる。
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