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「わかった。たしかに、その子の容態は仮病じゃなさそうだ。家はそんなに遠くない。とりあえずの雨宿りにおいで。後のことはまた後で考えよう」
(男の家に、美少女が二人か。案外明日の朝になったら出て行っているかもしれないし。貴重品だけ隠しておけば)
このとき。
ラナンは二人の事情に特に立ち入る気はなかった。自分のような冴えない人間はいかにも利用しやすそうに見えただろうか、とは思ったが。
取り急ぎの対応がその後、年単位の付き合いになるとは。
この時点では一切、考えていなかった。
* * *
ラナンの仕事は、主に魔法を動力源とする家庭用器具の調整である。
魔導士としての仕事が半分。
あとは螺子をしめたり、高い天井の灯り用の魔石を交換したりと、何でも屋の技術者であった。
「今日も仕事に精が出るねえ。やっぱり、ああいう可愛い子と暮らしていると、違うんだろうねえ」
出先の宿屋で、浴場の空調を見終わったところで、主人に声を掛けられる。
「自分だけじゃないっていうのはプレッシャーですよ、実際。三人分稼がないと」
代金を受け取りながら、ラナンは人好きのする笑みを浮かべた。
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