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愼
「パソコンでログインすればいいわけ?」
「いえ、もう既にこの部屋にはシステムが導入されています。優樹さんの呟きにも反応するはずです。」
引っ越し当日。システムを導入したFO企画株式会社の及川さんと俺のマンション前で合流した。何度か会った事はあるが、この坊主頭と眼鏡の組み合わせは頂けない。全然好みじゃない。玄関の扉のカードキーを渡されて、オートロックの機械に当てようとした。その時、何処からか声が聞こえた。
『お帰りなさいませ。優樹様。キーを解除いたしますか?』
「!」
一瞬びっくりする。カン高い女の声。これがシステムに組み込んだAIか……。
「うん。開けて。」
俺の声に多分部屋中の鍵だろう。カチャっと鍵の開錠する音が一斉に鳴り響いた。
「便利だな。」
「でしょう? 失礼します。」
及川さんが俺の後から入ってきた。今回のシステム導入の責任者としてここのシステムの説明をするために。
「それで? 聞いておく事は?」
面倒臭い。けれど、ここに住むようにとの親父の命令は絶対だった。リビングまで移動し、2人でテーブル越しに向かい合いソファに座る。初めて入る部屋。透明な天板が乗ったテーブルに白いソファー。金はかかっているかもしれないけど、全然好みじゃない。
「お部屋の間取りはご自分でご確認ください。分からなければ、ホームAIにお尋ねください。全ての部屋にカメラとスピーカーを埋め込んでおります。」
「全てって……風呂場にも?」
俺の生活のサポートをするための最新技術を駆使した、このマンションに移ることには同意した。したけど、何だか監視されているようで嫌だ。
「もちろんです。しかし、それはホームAIが優樹さんを守るためであって、それ以上の事はしませんのでご安心ください。」
「それ以上ってなんだよ。それ以上って……。」
それ以上に何かできるわけないだろ? そもそも人工知能。何もできるはずないじゃないか。でも何だか、何だか恥ずかしい。
『優樹様。体温が上昇中です。』
無機質な女の声に飛び上がった。冷水を浴びたように、一気に熱が冷めた。女の声、女の声は苦手だ。
『下がりました。』
前を見ると、及川さんがニヤニヤしていた。
『私が見たものは24時間は保存しますが、それ以上は全て削除いたします。回線を通じて外へは漏れませんのでご安心ください。』
およっ? 俺の気持ちが通じた? どこから声が聞こえてくるのかキョロキョロ辺りを見回していると、及川さんが声を上げて笑った。
「はは。優秀でしょう? たくさん話をしてください。話せば話すほど優樹さんにカスタマイズされて、より快適になるはずです。」
話しか。苦手な女の人と一日中一緒にいて、監視までされる……。俺は微かに身震いした。
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