夕食

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『ドアを開けてください。』 洗面所で顔を洗っていると、天井から声が聞こえてきた。小さなスピーカーが取り付けてある。カメラも一緒に。洗面所には浴室も隣接しているから、カメラをガムテープで覆った。もちろん浴室もだ。 「どうした? 掃除?」  顔を拭きながら、ドアを開けてやる。箱型の自動掃除機が長い触手を回しながら中に入ってきた。愼2号と名づけた掃除機がそこいらへんを回り始めた。  俺が洗面所に籠ると、よく愼が自動掃除機を駆使して様子を見にくる。掃除機にももちろんカメラが仕込んであるから、俺の様子を見に来るのだろう。朝は呼びかけられると、こうして入れてやる。問題は夜の風呂だ。ちょっとでも長いと、愼は煩い。昨夜はこの掃除機がドアに何度も体当たりするのに負けて、1時間で風呂を出た。 「毎日掃除しなくてもいいじゃん。今日も来るんだろ? 岡村さん。」 『ガムテープを外していただければいいのですが。』 「馬鹿。外すわけないだろ?」  これでも真新しいマンションの白い天井で、目立たないようにって白の布テープを買ってきたんだ。2㎝の長さ2本分必要なだけなのに、わざわざ25m巻きのを買って貼り付けた。残りの24m96㎝はどこに使う? 『髪の毛が伸びてきましたね。髪の毛の根本2㎝ほど元の髪色に。』 「分かってる。……また染めようかな?」  この2か月髪を切っていない。アッシュグレーに染めた髪も、元の茶色が見えてきて不恰好になってきた。もう一度染め直すかな? 『地毛の色も優樹様にはお似合いです。緩くウェーブされたその髪型は学生の間の流行ですね?』 「うん……。そう。」 どうしても長くなった前髪が気に入らずに、髪をいじりながら上の空で返事をした。やはり今日は美容室を予約するかな? 『優樹様、本日岡村様から時間を変更したいとの申し出がありましたが、どうなされますか?』 「えっ? 何時?」  家にハウスキーパーが入るのは12時から3時間のはず。今は8時半。遅くなるのか? それとも早く? 『9時から12時までに変更が可能か、と言うことです。』 「へぇ、いいんじゃない? 俺も会ってみたい。」  愼2号に向かって呟く。今日は午前中の講義が休みになったから、11時にマンションを出れば、余裕で間に合う。ゆっくりとどこかで昼食もとることができる。2号は最後に洗濯機と洗面台の間に触手を飛ばしてから、方向変換をした。 『承知いたしました。』  岡村さんが来る前に、朝食を摂ってしまおう。2号が洗面所を出る後ろから俺もついていって、リビングへ戻った。  
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