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序章
──── 文禄五年【一五九六】閏文月【七月】の十三日、子の刻。暗闇の中、京の南に位置する山城伏見の近くで大地震が発生する。俗に言う慶長伏見大地震である。伏見に聳え立つ伏見城は豊臣太閤秀吉の居城であり、伏見城の天守が崩れ落ちると京の群勢は大混乱に陥った。
『太閤殿下!太閤殿下!太閤殿下!』
ドンドンドン、と長身で大柄な男が太閤秀吉の頭部の大きさにも勝ってしまいそうな両足を、伏見城の床に付けて大きな音を響かせ、太閤秀吉が妻の高台院寧々の胸に抱かれる伏見城の一室に辿り着く。
『と、虎之助…儂はもう死んでしまうのか。孫七郎が儂を殺しに伏見の此の城に降りて来たのか。』
高台院寧々に抱き付き、相貌を蒼白として唇を震わせる此の太閤秀吉に、「天下人」と呼ばれる程の堅くて重々しい威厳と言う物は少しも無い。
『太閤殿下、落ち着かれませ。此の虎之助、何としても太閤殿下を御護り致します。』
豊臣政権や徳川政権の二つの政権に大きな影響を及ぼした加藤肥後守清正、又の名を加藤虎之助清正とする此の男の生涯が今、幕を開ける────。
左/加藤肥後守清正
右/豊臣太閤秀吉、大政所なか、高台院寧々
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