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美濃大良河原〔現在の岐阜県羽島市正木町大浦新田付近〕で織田上総介信長軍二五〇〇と斎藤新九郎義龍軍三八〇〇の両槍隊が激突。槍で突いては、相手の槍を弾き、突いては弾く。そして、後方から上総介信長騎馬隊数百がタカッタカッタカッ、と砂を蹴って馬蹄の音を響かせ、其の大良河原を駆ける。
『飛具隊、前へ出でよ!』
上総介信長の下知に弓箭を握った御弓の衆と火縄銃を把持する鉄砲の衆〔又の名を鉄砲隊〕が、闘庭へ出た新九郎義龍槍隊の胸中に箭と銃丸を放つと、新九郎義龍槍隊が重々しい金属の音と共に倒れた。すると、其れに次いで新九郎義龍隊の騎馬隊、飛具隊が最の闘庭に立つ槍隊の前に出て上総介信長飛具隊と上総介信長槍隊を悉く首を馘した。思いも行なかった新九郎義龍軍の俄然な打掛に、上総介信長の本隊は大混乱に陥った。
『織田はもう終い時じゃ。其方に後は任せる故、必ずや儂に良き報を致すのじゃ。』
そんな中、氏家常陸守直元が佐藤紀伊守忠能に戦の後を任じて帰の途に着いた。然し、後に織田上総介信長を逃した事を斎藤新九郎義龍の子で有る斎藤治部大輔義興に追及される。此れが常陸守直元が永禄十年【一五六七】の稲葉攻めに内応した理由となった。
そして、戦が開けて四半の刻が経った。不利の続く上総介信長に追い討ちを掛ける様に報が飛ぶ。
『岩倉の織田三郎七兵衛尉殿が清州の城下に火を放ったとの事。』
其の軍兵の報を受けた床机に座していた上総介信長は、床机に立ち上がり拳を強く握り締めて其の軍兵に下知した。
『急ぎ於濃に岩倉との和議をせよ、と伝報致すのじゃ。』
其の遣取が行われる陣所の袂に、弾正右衛門兵衛清忠は跫音に合わせて「ガチャガチャ」と具足を鳴らして歩を置いた。
『美濃守護代に在られます斎藤山城守様の御命を受け、織田上総介公を御護りに参じました。』
弾正右衛門兵衛清忠は腰を低めて上総介信長に力強き確りとした声でそう告げると、上総介信長は其の一刻を境として全く別の者に成る。
『蝮が儂を護れ、と申されたのか…。』
岩倉織田氏の清洲放火に退陣をも考えたが弾正右衛門兵衛清忠の言ノ葉に、退きに向く双足を先の向きに転じる。
『儂は親父殿の御意志に基づき 美濃の躻 を討たんとする!』
此の時より、大良河原の陣勢は上総介信長方に流れは傾きを始めた。上総介信長は美濃の長良川に向けて只管に前へ進む。然し押し進むに連なり犠牲者が出て次から次へと報が上総介信長の耳に漂う。
『山口取手介殿、土方彦三郎殿が御討死。森三左衛門様は御膝に傷付けりとの事。加え恐れながら申し上げます。稲葉の城より斎藤山城守様を討果した武を装いし大群が此方へ行を進めて居ります。』
詰まりは稲葉山城より新九郎義龍軍が汗馬の蹄を鳴らして大良河原に進んで居るとの事で有る。上総介信長は其れに「何故だぁ!」と、甲を被りし重々しい身体を怒に当てた。
『加藤弾正右衛門兵衛。此の身体を懸けて殿軍〔最後尾で敵軍と戦う軍兵〕として上総介様を御護り致します。』
大良河原に稲葉の斎藤新九郎義龍軍が接し続くと一万三千に至る事となる。織田上総介信長は其を恐れて加藤弾正右衛門兵衛清忠と共に殿軍を務む事となる。斎藤新九郎義龍軍は陣を退く上総介信長軍を特に深追に渡る事は致さなかった。上総介信長率いる群勢は其の後に清洲へ無事帰陣した。
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