【ドラゴンの話】

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【ドラゴンの話】

 古より伝わる伝説の存在、ドラゴン。この世界では現在、人間と魔族、そして精霊がそれぞれの場所で暮らしている。  人間は農業や漁業、また鉱業などで生活を営み、魔族は魔物を使い人間の捕虜を手に入れその知識を得ようとする。精霊たちは傍観者として成り行きを俯瞰しつつ、この世界の歯車を動かす。そしてドラゴンは体力消耗が激しいので、よっぽどのことが無ければ動きはしない。  そんな中、選ばれし勇者がまた復活した魔王と対決し捕虜たちを救おうと動きだしていたーー  ドラゴンは思った。いずれの種族にも力を貸すつもりは無いが、世界が混沌に呑まれては困ると。起こってからでは遅いのだと。そこでドラゴンは勇者の元へと旅立った。  そして、勇者を前にドラゴンは大きく鼻息を出す。何もすることはない。お座りのような格好をしているだけだ。  勇者はと言うと、ドラゴンに物怖じせず果敢に身の丈より大きな大剣を構え、お座りをしたドラゴンの腕を切り落とす。  そんな姿を見たドラゴンはこう言った。 「そういうことをしては、永遠にこの世界は変えられないぞ勇者殿。目に見えるものに怯えるようでは、カルマの従者にしかなれないのだ、勇者殿」  自らの腕を無くしたにも関わらず、ドラゴンは何もせず自らの寝床へと帰っていったーー  その後……一世紀がたった世界では、荘厳な城で立派なヒゲを蓄えた男がワインを片手に 「わざわざ来てもらってすまない」  それを受けてニヤリと笑うツノの生えた男はコクリと頷き 「すっかり立派になったな。しかし人間の寿命は早いな。君の祖父、父と見て来た。俺は、あと何回死を見ていけばいいのだろうな」 「おかげでいい助言がもらえるわけだ、感謝している。私の子もそのうち君と会う時が来るだろう。  専ら、まだ妻がお腹に向けてドラゴンの話をしている最中だがね」 「そうか。楽しみだな……人間の死生観は、いかんせん興味深い」 了
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