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すぅっ、と一口、煙を吸って吐いてから、私は軽薄そうな男を見上げる。
「どうして? 神様なら何でもできるじゃない」
「いやいや、神様だって得意不得意があるでしょ?」
「万能じゃないの?」
「好き嫌いって言ってもいいか」
「ニンジンとピーマンは食べられませんって?」
「そうそう」
ニッ、と薄闇でも分かる白い歯を見せる。
私は興が削がれたにもかかわらず、男と反対側の壁に背を預けながら立ち、不敵な笑みに唇を歪ませながら訊き返した。
「仕事を好き嫌いをする奴なんて、ここでは、生き残れないわよ」
「世知辛いねぇ」
そう言って、男はぐぃ、と瓶を仰いで中の液体を喉に流し込む。
手のひらサイズより少し大きい瓶は、銘柄通りの中身なら酒だ。けれど、本物ならけっこういい値がつくはず。こんなごみ溜めのような裏路地で、アヤシイ中毒患者のような男が手にするには不釣り合いな品だよ。
まぁ、側だけ酒瓶で中身は別物ってことかもね。
紛い物に、粗悪な合成品。酔うだけなら薬の類いでもできるから、本人がいいなら中身は何だって構わない。
「それで、おっさんは私の祈願の横やりを入れたんだ。なぜ願いが聞けないのか、説明してほしいんだけれど」
「こんなイイ男に向かって、おっさんかよ……」
本当は理由なんてどうでもいい。
何もかも、どうでもいい。
全能を嘯く神ができないって言うなら、自分が果たせばいいだけだ。自殺って方法で。それが簡単にできない世の中だから、試しにお願いしてみたのに。
そんな私の心の内を見透かしたかのように、男はふふふん、と鼻を鳴らしてから答えた。
「アンタの願い、そいつは神は神でも、死神の役目だ」
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