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8話 ミリオとデルドロ
「僕は反対です!今すぐ中止して下さい!」
デルドロの馬に相乗りさせて貰っているところにヴェインがもの凄い形相で怒鳴り込んできた。いつもしっかりと一本に整えられている金髪は乱れ、リボンが解けかけている。
そんなヴェインの形相に動じる事なく、デルドロはゆったりと馬を歩かせて、ヴェインに近づいた。
デルドロの前に俺、背後にギルヴァールが騎乗しているので、正面からでもヴェインの顔がよく見える。
声は怒っているのに、顔色は真っ青だった。
「おー! ヴェインだな?! 生意気そうになったなァ!! 髪なんか伸ばして、お前女の子だったか?」
「ふざけないでください!
リデルにはまだ早過ぎるっ! 3歳なんですよ?!修行ならまだしも、洞窟だって?!」
「俺ァ、ふざけてないぜ」
「いいから、中止しろ! デルドロ! 命令だ!」
命令という言葉にデルドロを取り巻く空気がピリッと張り詰める。
「……ヴェイン、悪いがな。
俺に命令できるのはミリオだけだ。
それと、俺がミリオの命令に背くわけないだろ」
低い声でそう告げられ、ヴェインが僅かに後退った。
「……くっ」
「悪いなァ。でもよ安心しな。
ミリオもリデ坊と同じくらいん時に俺と契約したんだぜ。やりゃあ、できるさ」
「ち、父上は規格外の人間です。なんの慰めにもなりませんよ」
「お前も大概、規格外だと思うがな」
デルドロの呟きに俺は激しく同意した。
ヴェインも十分規格外な子供だと思う。
そんな彼に規格外と言われる父は、バケモノかな?
「なあ、リデル? 止めてもいいんだぞ?
今からでも遅くない。兄様が父上のところに一緒にお願いしに行ってやるから、考え直さないか?」
「……ごめんなさい、ぼく、やりゅよ」
「リ、リデル……っ」
「やりゅの、やりゅってきめたの」
「だとよ、お兄様?もうコイツは立派な男だぜ」
悪いが俺はやると決めた。確かに3歳児には危険かもしれないが、中身は大人だ。
剣を振るうわけでもないし、注意して進めばさして危険ではない………と思いたい。
俺が反発したことでショックを受けているヴェインに申し訳なく思いつつも、俺はデルドロの袖を引っ張って先を急ぐよう急かした。
デルドロが頷き、手綱を握り締めて軽く馬を蹴る。
「ごめんなちゃい、にぃさま」
「………リデルライト…っ」
振り返りそうになる俺の肩をデルドロの大きな手が軽く掴んだ。
振り返るな、そう言われた気がした。
「……ごめんなちゃい」
※※※
町を抜ければ、すぐに広大な麦畑が広がっていた。遠くには水車も回り、のどかな風景に物見遊山にでも来た気分になる。
馬の上は、高さもあれば揺れも想像以上に大きかった。高い草を飛び越えようと軽く跳ねただけでも強い振動が伝わってくる。
振り落とされないようにデルドロが抱えてくれてなければ、俺なんかあっという間に落馬しているだろう。
「寒くないか?」
俺は、頬に冷たい風を受けながら小さく頷いた。背中から伝わるデルドロの体温のおかげで、あまり寒さを感じない。
「だいじょぶ。……ギル〜ギルもちゃむくなぁ〜い〜?」
「…………」
「なんだ、こっちの坊主はまだ上手く喋れないのか」
「うん」
案の定、ギルヴァールからの返事はない。
見兼ねたデルドロが唸る様な声を出し、ギルヴァールに何回か話し掛けた。
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️」
「……………◼️◼️」
獣の唸り声と人間の囁き声とが混ざったような不思議な鳴き声で会話する二人の言葉は、全くといって理解できない。
そもそも音として置き換えるのが難しい、そんな感じだ。
「寒くないとよ」
「よかった」
「………」
「ねぇ、どうくちゅまではあとどのくらい?」
黙っているのも暇なので、俺はデルドロに話し掛けた。
「ん? そーだなァ、あの太陽が沈む頃には着いてるんじゃねーか」
「………ぇ」
半日以上もあんじゃねーか?! そんな長時間馬なんかに乗ってたら、尻が擦り削れてなくなるわっ!!
「うちょ…」
「嘘じゃねぇさ。楽しい散歩だと思えば、あっという間に着いちまうぜ。
あ、ほら見ろ! 野うさぎだ。美味そうだ。
ミリオに食わせてやりてぇな!ははははっ」
豪快に笑うデルドロにげんなりする。
熊男と3歳児との体力差考えろ! お前の散歩は、俺にとったらフルマラソンだから!
こうなったら、なるべく休憩を沢山とらせてもらうしかない…。
とくれば、まずは軽く世間話をしてジャブを打ちつつ、それとなく甘えて休みをねだっていく方向かな。
「はぁ……ねぇ、さんばんたいちょ。
おとうさまとは、いちゅからいっしょなの?」
「ん?どうした、急に」
「えーとね。ひまだから」
「ヒマぁ? く…くく…ふはははッ! 暇か!
ずっと馬の上だと確かに退屈かもしれんな!」
「ん、だから、おはなちちて」
俺は頭を後ろに倒し、デルドロを下から見上げてお願いした。
「あー……そうだなぁ。
もう30年以上になるか? 豆粒みてーに小さかったなァ」
「まめつぶ」
「あぁ、美味そうだった……」
「え、うまッ…?!」
遠くの空を見つめながら、デルドロは懐かしそうに語り出した。
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