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三年前、神様に自分は小説家になって印税で暮らせると言われた作家がいた。
その後、自分で小説を作って自分で売りさばく。
栃狂っているのはここからだ。
なんと、自分で自分の小説を買うためだけに借金をして売り上げ激増を装うのである。
ランキングトップとなれば興味本意で本は買われる。
その内容が酷評されようとも作家が自分で購入した作品の売り上げは延びているという寸法だ。
しかも、その事を詐欺呼ばわりされた作家は言う。
「否定していた神様に教えてもらったことだ」
全国放送、ブラウン管を通したお茶の間に自信ありげな声は生放送で届けられてしまった。
その事例が発端となり、その作者と同じ病状の患者が増え始めたことを政府が認めた頃には遅かった。
精神疾患として世界各地に様々な事例が浮上したのだ。
上げれば切りがなく、願いを無理やり叶える荒業。別名悪事。しかし皆が言う。
「全ては神様のお導き」
それは、どんどん異常さを増し、目は虚ろになり、身体は痩せる。舌が縺れ、寒いのか震える。末期になると身を壁際に寄せ、うつむき譫言を述べながら歯を剥き出して笑う。おぞましいことには、集団で公園に群れている。
その数数千万。
ワクチンなんてものはない。
精神疾患に薬はない。
科学的に薬でコントロールできるような病気ではない。
俺の歩く道なりで、今日もまたひとり犠牲者が出た。
まだ、マトモな奴らが救急車を呼ぶが、来る気配はない。
救急車は足りなくなり、働き手も居なくなって、世界は傾いている。
まだ、電気がついて、水がのめる日本はすてきだ。
最後にブラウン管越しで伝えられた異国の情報は、悲惨だった。
俺は、だらだらと一年前に連れ込まれた研究室へと向かっているが、気分はどんよりとしている。
「相模くん」
巻幡研究所勤務の研究生石森明美が俺を呼んだ。
「石森。早いな。また、実験体が運ばれたのか?」
「うん。朝山教授が言うには、数時間で亡くなるって」
「マジかよ。だんだん、死期が早まってねえ?」
「そうだね。だけど、出所もわからない、治療も発祥元もわからないんじゃあ、人類滅亡は近いと思います」
「だよな。それこそ、お祓い、祈祷、占い、スピリチュアルに頼るしかねえもんな」
「でも、神様なんて居ないんですから無駄だとおもいますけどね」
そんな日常会話をやり取りして、白い扉を開くと実験体を収容した部屋をモリタニングで眺めている男が振り向いた。
朝山克也教授で神経疾患、精神疾患、哲学、倫理などを幅広く研究している。
だが、その目に正気はない。
俺も石森も他の研究員も理解している。
朝山教授は、もう、永くはない。
そうして、俺たちも。
朝山教授は挨拶もせず、モニターに向き直る。
自分で自分の死を知るように。
周りは、朝山教授を観察する。
俺は浮かんだ光に願う。
そういう病気だ。
他力本願病に言葉を訂正したいくらいだ。
神経が蝕まれ、記憶は劣化し、どうにもならない思考が捏造されて夢も現実もない。
願い事が叶うなら。
ああ、神様、お願いです。
この苦痛、終わらせて下さい。
できれば、みんな助かる方法で。
俺の前で光が大きくなり、次の瞬間、俺は動いていた。
神様症候群の盛り上がりだ。
俺は、俺が、ワクチンを開発させて終わらせる、
そう、終わらせるんだ。
黒い闇が降ってくる。
もう、そこに俺は居ない。
狂った俺は朝山教授の首を絞める。
手に朝山教授の爪が食い込んだ辺りで、俺に女神は微笑んで、俺の世界は消えた。
完結
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