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「うえっ、ちょっ、何。泣きそうな顔してんじゃねえよ! 俺がいじめたみたいだろーが!」
「ええ~。いじめたじゃん。自覚なし?」
「麻美、てめーは余計な口挟んでんじゃねえ!」
「ハイハイ」
いつも通りの二人のやり取りを見て笑いながら、俺は言った。
「ありがとう、中井」
「ん? おう」
「俺、頑張る」
「……? おう、そうか。頑張れ」
俺は、彼に謝るのは諦めた。でも、ありがとうと伝えることは諦めない。まだ、一度も伝えていないから。
「名前も、ちゃんと聞く」
「うん? そうだな」
よくわからないまま相槌を打っている中井に向かって、俺は改めて決意した。後になって自分の気持ちに気づいて、伝えられずに後悔するのはもう嫌だから。
そのことを教えてくれた中井に、俺はもう一度、感謝を込めて微笑んだ。
「ありがとう」
こうして俺の人生は始まった。
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