猫の王様 ~EP.0 九条くんと始まりの話~

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「うえっ、ちょっ、何。泣きそうな顔してんじゃねえよ! 俺がいじめたみたいだろーが!」 「ええ~。いじめたじゃん。自覚なし?」 「麻美、てめーは余計な口挟んでんじゃねえ!」 「ハイハイ」  いつも通りの二人のやり取りを見て笑いながら、俺は言った。 「ありがとう、中井」 「ん? おう」 「俺、頑張る」 「……? おう、そうか。頑張れ」  俺は、彼に謝るのは諦めた。でも、ありがとうと伝えることは諦めない。まだ、一度も伝えていないから。 「名前も、ちゃんと聞く」 「うん? そうだな」  よくわからないまま相槌を打っている中井に向かって、俺は改めて決意した。後になって自分の気持ちに気づいて、伝えられずに後悔するのはもう嫌だから。  そのことを教えてくれた中井に、俺はもう一度、感謝を込めて微笑んだ。 「ありがとう」  こうして俺の人生は始まった。
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