1927人が本棚に入れています
本棚に追加
そんなある日。
「ねぇねぇ、橘さん。知ってる?市ヶ谷副社長に婚約者がいるらしいよ。」
「え?」
昼休み、同じ部署のかおりちゃんとランチをしている時に教えてくれた話に私は、持っていた箸を落としそうになった。
「橘さんは一時期、副社長と仕事してよく話していたから聞いたことあるのかと思っていたけど、知らなかったんだ。
取引先の社長令嬢で、副社長の幼なじみ。イギリスに留学前から婚約していたのが、最近帰国して近々正式にお披露目って噂だよ。」
「そ、そうなんだ。初めて聞いたよ。」
そのあと何を話したのか覚えていない。
それでも午後なんとか仕事を終え、帰ろうとエントランスに出た時、海斗さんがきれいな女性と楽しそうに話しているところを見てしまった。
質の良さそうなワンピースに腰までのゆるふわな髪のいかにもお嬢様とスーツ姿の海斗さんは、お似合いに見えて、見つからないように裏口に走った。
そして気がついたら、アパートのベッドにひとり座っていた。
ただ、私の心配通り、やはり都合のいい女だったんだと…
最近の海斗さんの行動の辻褄があったと落胆と同時に納得している自分がいた。
ただの遊びかセフレだったのね。
どうりでお互いの部屋ばかりで、遠出してもあまり外は歩かない。
支払いも面倒な事をして証拠を残さないはずだわ。
婚約者や周りに気付かれないように立ち回っていたとは…
最初から言ってくれたら、近寄らなかったのに。
最近決まった縁談じゃないのなら、彼女が留学中の性欲の解消用の相手が欲しかった?
私は、ちゃんと海斗さんと別れて、新しい恋しないとダメだ。
実らない恋に縋り付いていたって、惨めなだけだし。
私は海斗さんに本気で恋をしていた。
「付き合おう」って言ってくれて、彼女だと思っていた…
ううん。彼女だと思いたかった。
最初のコメントを投稿しよう!