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 私は海斗さんの元を去るにしたが、中絶することだけは、したくなかった。  両親を大学時代に交通事故で亡くし、家族のいない私にとって自分から授かった生命をなかったことにしたくなかったから。  再就職先も引越し先も決まっていなかった私は、普段連絡をとっていなかった母の妹、叔母の笠井麻子を頼って、退職後すぐにアパートを引き払うと静岡へ向かったのだった。  母の5歳下とは思えない下手すると私の姉で通りそうな麻子さんは、実家の一軒家で一人暮らしの48歳独身。  化粧品会社で課長として働く美魔女と言われるが、性格はサバサバした姉御タイプ。  私のことを黙って受け入れてくれたので、麻子さんと同居して家事をしながら、出産までの日を過ごした。  9月8日に生まれた男の子は、どことなく海斗さんに似ていて、ちょっとだけ苦い気分を味わって愛斗(まなと)と名付けた。  麻子さんには、愛莉と海斗から取ったとしか思えない未練を物語るような名前に苦笑いされたけど。  海斗さんに愛斗の事を教える気はなかった。  認知も養育費もいらない。  婚約者さんと結婚する彼に会いたくなかった。  違う。会ったら、ずるずるとしてしまいそうだったからだ。  恋人ならまだいい。でも愛人になるのは絶対に嫌だから。
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