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「お疲れ様!」  缶ビールのコツンという音を立てて、打ち上げが始まった。  イベント会場から徒歩5分の仲田商事会議室。  会場の撤収が終わって、戻った社内での宴会だ。  缶ビール1本とビニール袋に入ったお菓子の詰め合わせ。 それだけだが、終わった後の高揚感で結構、酔える。 「橘さん、今日はお疲れさん。」  仲田社長が、私に話しかけてきた。 「お疲れ様です。次のイベントは、会場担当を増やしてくださいよ。私、ヘトヘトです。」 「まぁ、予算次第かなぁ。次は金曜日からのお城公園の夏祭りの飲食ブース、がんばろうね。」  いつものように、のらりくらりと増員をごまかされた。  私はため息をひとつつくと立ち上がり、近くのバス停の最終バスに乗るため会社をあとにした。  イベント最終日は、いつも簡単な打ち上げがあるので、バス通勤か翌日会社に車を取りに来る事にしている。  今朝は時間がなくて車で来たし、明日は特に用事もないので、車を置いてバスでの帰宅だ。  会社から一度、駅まで行き、そこから自宅への路線に乗り換えるので1時間ほどかかるが仕方ない。  次からは、乾杯はジュースかお茶にしてビールは持ち帰ろうかなと考えていた。  駅の南口でバスを降り、北口のバスターミナルへ向かうために、駅のコンコースを歩いていて、新幹線の改札口から出てきた人とぶつかりそうになった。 「すみません…」  顔も見ずに謝って、そのまま避けようとすると、いきなり手を掴まれた。 「あ、いり?」  思わず顔を上げるとリムレス眼鏡に身体にフィットしたスーツ姿、最後に見た時より少し痩せて少年ぽさの抜けた顔があった。  市ヶ谷海斗…  もう二度と会うはずのない愛斗の父親…がそこにいた。
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